私たちがアレックス王子の部屋へ入ると同時に、打ち合わせ通りにアマゾナが手下達とわざと階段付近で大声で会話をし始めた。

「うん? 何だか廊下が騒がしくないか?」

アレックス王子が騒音に気付き、首を傾げた。

「ええ、言われてみればそうですね。少し様子を窺ってみましょう」

私の言葉にうなずくアレックス王子。2人で部屋のドアに耳を押し付けて、部屋の外で交わされている会話に耳をそばだてた。


『あんた達……私が言った通り、あいつらに睡眠薬入りのワインを差し入れたんでしょうね?』

アマゾナの声が聞こえる。

『ああ、勿論だ。全員に配ったから今頃は正体を無くして眠っているんじゃないのか?』

『よし……なら確認してみよう……』

そしてギシギシと階段を上ってくる音が聞こえてくる。

「お、おい! まずいぞ……こっちへ近づいて来る。どうすればいいんだ……。護衛の兵士は全員眠ってしまっているんだぞっ!?」

案の定、ヘタレなアレックス王子は顔を真っ青にさせて私を見る。

「大丈夫です、アレックス様。私が何とかします。まずは連中に見つかってはまずいので、この部屋にあるロッカーに隠れて下さい」

大の男が1人、余裕で入ることが出来そうなロッカーにアレックス王子を押し込める。それと同時に、アマゾナ達が打ち合わせ通りに部屋の中に乱入してきた。

バンッ!!

大きくドアを蹴破り、アマゾナと手下たちが部屋の中になだれ込んで来たので、互いに無言で目配せすると、一世一代の演技を始めた。

「キャアアッ! あ、貴女たちは……私を誘拐した……!」

「おや……お嬢ちゃん。居なくなったと思ったら、まさかまたしてもここに戻って来ていたとはねぇ……。それであんたの連れの男は何処へ行ったんだい?」

アマゾナの演技は流石だ。

「か、彼ならもうここにはいません! 私が逃がしましたっ! あの方の命は……私なんかの命よりもずっと重いですからっ!」

恩着せがましいセリフを言ってみる。これ位下手に出れば、この先少しはアレックス王子の私に対する態度も軟化するのでは?

「ふん! 何をふざけた事を抜かすんだい? このアマが!」

アマゾナは言うと、背後にいた手下の頬をパンッ! と殴りつけた。痛みに顔を歪める男の代わりに私が叫ぶ。

「キャアッ!」

どう? アレックス王子。貴方を庇って私が代わりに叩かれていますよ? まぁ、実際に叩かれているのは私ではないけれども……。

「どうだ? あの男の行方を吐く気になったかい?」

アマゾナが迫真の演技で迫る。

「いいえ……! い、いくら引っぱたかれようとも私は絶対にあの方の行方を言いませんっ!」

私もアマゾナに負けないように演技する。

「何だって……? 生意気な女だねえ……よし! ならお望み通り白状する気になるまで引っぱたいてやるよっ!」

アマゾナの言葉に引っぱたかれた男の顔が涙目になり、恐怖で歪む。

「それじゃ……歯を食いしばりなっ!」

そしてアマゾナは手下の頬をパンッ! パンッ! と往復びんたを始めた。必死で耐える手下の代わりに私はそのびんたに合わせて悲鳴を上げる。

「キャアッ! い、痛いっ! や…やめてっ! いやああっ!」

「全く……まだ言わないのかい? 本当に強情な女だねえっ!?」

何通りもの悲鳴を駆使するも、一向にアレックス王子はロッカーから出てくる気配すらない。しかし、いくら演技とはいえ、仮にも自分の妻である私が暴力? を受けているのに、いまだにロッカーから出てこないとは。
けれどもこれは想定範囲。アマゾナはアレックス王子の外道ぶりに呆れているのか、肩をすくめなて最終兵器『睡眠気体』の入ったスプレー容器を取り出すと、そっとロッカーへ近づき、ぶすりとロッカーの隙間にスプレーの先端を差し込んだ。

途端にそこから眠気を誘う気体がロッカーの中に流し込まれ…。

ドサリッ!

ロッカーの中で何か重たいものが崩れ落ちる音が聞こえた。

私が無言でロッカーを開けるとそこにはだらしない顔で眠りについているアレックス王子がいた。

「フフフ……捕獲成功」

これでアレックス王子は私の手の内だ。

さあ、少しばかり痛い目に遭って反省してくださいね?

私は足元で転がっているアレックス王子を見て笑みを浮かべた――