――8時半

水色のフリルたっぷりの可愛らしいロングワンピースを着用した私はウキウキした気分で、親しくなったメイドのロキシーに連れられてダイニングルームへと向かっていた。

「レベッカ様、何だかご機嫌ですね?」

朝日を浴びながら私の前を歩くロキシーが振り返りながら尋ねてきた。

「ええ、それは勿論よっ! 実はね……今朝ある仕込みをしたのよ。だからきっと今頃はダイニングルームに集まった人達は私の噂でもちきりだと思うの。私の人気もうなぎ上りになってるんじゃないかしら。フフフ……」

「レベッカ様の笑顔を見ていると、何だかこちらも幸せな気分になってきますわ。今日は1日良い日になりそうな予感がします」

「ええ、大丈夫。ロキシーにとって、今日はきっと特別な1日になるはずよ。そう……例えばもし意中の彼がいたなら告白なんかされちゃったりして!」

「えっ!? ほ、本当ですか!? 実は私厨房で働いている男性に恋してるんです。多分自惚れなんかじゃなく、彼も私の事憎からず思ってくれてると思うんですけど……なかなか2人の仲が職場仲間どまりで……」

シュンとするロキシーに私はアドバイスした。

「大丈夫っ! 私はその彼に念を送ったわ。きっと近い内に2人の間に進展があるわよ!」

私は自信を持って答えた。そう、私は自分に親切にしてくれる相手には積極的に加護を与えてあげる。受けた恩は必ず返す事にしているのだ。

「本当ですか? それでは私、その日が来るのを楽しみに待つことにしますね? さあ、レベッカ様。ダイニングルームに到着致しました。それではごゆっくりお過ごしください」

ロキシーは丁寧に頭を下げると去って行った。

「フフ……ここね? さてさて、私の事は噂になってるかな~」

浮足立つ気持ちで私はダイニングルームに足を踏み入れた。


「おおっ! 何て人の数なのかしら……!」

そこはとても巨大なホールだった。どれくらい巨大かというと、たぶん200人位の人々が一斉にダンスを踊ってもぶつかることなく余裕で踊ることが出来そうな広さなのだ。そこに食事をしに集まる大勢の人々。
それは昨夜とはまるで比較にならないくらいの大人数だった。
人々は窓際にずらりと並べられたテーブルの上の様々な料理をそれぞれ思い思いにトングで皿に取り寄せている。ホールの中央には円卓のテーブルがいくつも並べられ、そこに座った人々は皆料理を口にしながら会話を楽しんでいた。

「アレックス王子はどこかしら……?」

辺りをキョロキョロ見渡しても、この騒めく大人数の中からアレックス王子を見つける事は難しいかもしれない。

「仕方ないわ……今はとりあえず食事をしながらみんなの会話に耳を傾ける事にしましょう」

料理が並べられてるテーブルに向かうと脇に置かれたお皿を1枚手に取り、早速料理を見て回った。
あ、あのボイルウィンナー美味しそう! このオムレツ……ふわトロで食べてみたいな……。等とあれもこれもとトングで料理をお皿にとりわけ続け……。

「お、重い……」

ずっしり重くなった料理を両手で持って運びながら、とりあえず一番人が集まって盛り上がっているテーブル席のすぐそばの席を陣取り、食事をしながら人々の会話に集中した。


「そう言えば聞きましたか? グランダ王国のアレックス王子の元に嫁いで来られた女性の話……確かレベッカという名だったと思うのですが……」

1人の男性が私の話をし始めた。つ、ついに……キタかも……っ! 私はワクワクしながら後ろの集団の人々の話に耳を傾けた――