どの位眠っていただろうか……。何やら外の騒がしい声でふと目が覚め、驚いた。なんと部屋の中は薄暗く、レースのカーテンしか閉めていなかったのだ。そして窓の外が何やら明るく照らし出されて、音楽と共に人々のざわめき声が聞こえて来る。

「な、何? 何事!?」

慌ててガバッと飛び起きると、もうすっかり体調が良くなっていることに気が付いた。寒気もないし、頭痛も無い。あれ程だるかった身体も今ではすっかり元通りになっている。

「良かった~すっかり風邪が治ったみたい。それにしても何であんなに外が騒がしいの……?」

不思議に思い、ベッドの足元に置いた部屋履きを履くと窓へ近寄り外の様子を窺った。
その光景を目にした私は目の前の光景が信じられずに目をゴシゴシ何度も擦って驚いた。

「え……何……一体どういう事なの?」

 この部屋は2階。そして真下には薔薇の庭園がある。夜は薄暗くなって折角の薔薇も見る事が出来ないのだが、今夜に限ってあちこちにランタンが並べられ、ライトアップされていた。そして正装した多くの男女が音楽に合わせてダンスを踊り、庭に置かれたテーブルには美味しそうな食事がズラリと並んでいる。

「あ……ひょっとして今夜が独立記念日のパーティーだったんだわ!」

アレックス王子は一度もガーナード王国の滞在日数や予定を私に教えてくれる事はなかった。馬車の中で何度も何度も聞いたのに、『行けば分る』を繰り返すばかりで結局詳細は何一つ分らなかったのだ。
窓の外を眺めながら、私は思わず口にしてしまった。

「いいな~……皆楽しそう……。食事も豪勢で、とても美味しそうだしな……。何だかお腹空いてきちゃった」

アルコールランプに火を灯し、ため息をつきながら、大事なことに気が付いた。

「そうだった! 私はここの国に正式に招かれてやって来たんじゃないのっ !しかもアレックス王子の妻として正式にっ!」

そう、私はもうオーランド王国の王女では無い。グランダ王国に嫁いできた王女のだ。

「そうよ、私も参加すればいいだけの話じゃない。それじゃ早速着替えなくちゃね」

まさかいくら何でもネグリジェでパーティーに参加するわけにはいかない。私はアルコールランプを持って移動すると持参してきたトランクケースを開け……とりあえず一番ドレスっぽく見える青い服を取り出すと、鏡の前で当ててみる。

「う~ん……かなり地味かもしれないけど、別に人前でダンスを踊るわけでもないし、食事を食べるだけだから構わないよね」

そして私は早速鼻歌を歌いながら服を着替えだした。
フリルのついた白地に刺繍が施された襟に青いリネンのロングドレス。その下からは白のアンダースカートがチラリと見える。うん、可愛らしいんじゃないかな?

まあ……他の女性達の本格的なドレスに比べればかなり見劣りしてしまうかもしれないけれど、それでも普段の私の着ている服に比べれば格段にグレードアップしている。第一私は未だに一切のアクセサリーを持っていない。なので今着ているドレスが一番無難に感じられた。

「よし、それでは早速食事に行きましょうっ!」

私は元気よくガーデンパーティ場へ向かった――