まず馬車から降りると私は周囲の状況を確認した。ここは森の中。そして眼前には山賊たちが……1、2、3、……全員で8人いた。
7人がマント姿で、中には1人だけフード付きのコートを羽織った髪の長い男がいる。
なるほど……彼が魔術師か。中々分かり易い恰好をしている。

背後には護衛の兵士たちが馬の上で気持ちよさそうに眠っている。この分だと恐らく馬車の中にいる護衛の人達も眠っているんだろうな……。

「さあ、降りてきましたよ。これでいいですか?」

するとリーダーと見られる頬に傷のある30代前後の男がニヤリと笑う。

「へぇ~これは偉く別嬪さんが乗っていたじゃないか?」

「え? 本当ですか?」

思わず褒められて笑顔になる。すると馬車の中からヘタレな王子の声が聞こえる。

「この馬鹿っ! 喜んでいる場合か!」

「はい、すみません」

注意されてしまった。

すると別の山賊が肩をすくめた。

「オイオイ……俺たちゃ知ってるんだぜ? そのお嬢さんの後ろの馬車にはもう1人男が乗ってるんだろう? 情けない奴だな~女だけ馬車から降ろして自分は中で高みの見物か?」

「あ! 中々良いこと言ってくれますね? 本当にそう思いますよ。あなた方は山賊なのに良い人達ですね」

思わず本音を口走る。

「ば……馬鹿っ! 山賊を褒めるなっ!」

再び声だけで文句を言ってくる王子。

「おうおう気の毒になぁ……お前さん、あの馬車の中の男に酷い目に遭わされているんだろう? 俺達の所へ来いよ。可愛がってやるぜ?」

別の山賊が手招きした。

「ええ、でもせっかくのお誘いの言葉ですが私達、行かなければいけないところがあるんですよ。なのですみません。なるべく手荒な真似はしたくないので見逃して頂けますか?」

そんな私を見て山賊たちは顔を見合わせ、全員で大笑いを始めた。

「おい! 恐怖で気でも狂ったのか!?」

アレックス王子が窓から顔を覗かせた。……全くうるさい人だ。

「アレックス王子、何も出来ないのでしたら、少しお静かに願います」

私は背中を向けたままアレックス王子に話しかけた。

「は!? お、お前……一体誰に向かってそんな……口……を……」

ドサッ!

背後で崩れ落ちる音が聞こえた。……どうやら無事に眠ってくれたらしい。そして眼前の山賊たちはまだゲラゲラと笑っている。

「あの~ところで……少し伺いたい事があるんですけど!」

「ん? な、何だ? 嬢ちゃん」

リーダー格の山賊は笑いを堪えながらこちらを見る。

「あの、皆さんはずっとここで山賊業を営んでいるのですか?」

「ああ、営むって言う言い方もなんだが……そうだな」
「そうそう、これが俺達の生きる道よ!」
「嬢ちゃんも一緒に山賊になろうぜ!」

好き勝手な事を言う山賊たち。なら、もう遠慮はいらないだろう。

「そうですか……よく分りました。それならやはり貴方達を見過ごすわけにはいきませんね」

「な? 何だ?」

リーダーが首を傾げる。さて、どんな方法で懲らしめようかな……? よし、あれにしようっ! 幸いここは森の中だし都合がいい。

私は右手の人差し指と中指を口に当てると思い切り口笛を吹いた。

ピ~イッ!
ピ~イッ!

森の中に私の口笛が木霊する。すると……。

ドドドドドド…ッ!

背後から物凄い地響き音と、鳥の鳴き声が響き渡って来た。

「な、何だ!?」
「地震なのかっ!?」
「何かこっちに向かって来てるぞっ!」

山賊たちは怯え始めた。すると森中に住む動物たちがこちらへ向かって突き進んでくる姿が見えてきた。キツネやタヌキ、クマにシカ、中には小さなマウスまで混じっているが……何十匹も集まれば彼らにとっては恐怖以外の何ものでもないだろう。さらに頭上ではカラスがギャアギャアと鳴きながら彼らの頭上を旋回している。

「ギャアアアアッ!!」

大の男たちが揃いも揃って情けない声を上げて、一目散に逃げだして行く。そして私を追い越して山賊たちの後を追いかける動物たち……。

やがて、地響きは収まり辺りは静寂に包まれた。

「ふう……皆が眠っていてくれて助かったわ」

私は溜息をついた。
今私が使った力は全ての動物を操る力。意識がある人物だけを襲うように命令を下したので、きっと彼らは気を失うまで襲われるだろう。

「手を抜くように命じたけど無事かしら?」

私は青い空を見上げながらポツリと呟くとアレックス王子以外の全員を起こして回った――