その後、ミラージュはメイド長に呼ばれて部屋へと案内され私は1人きりになった。何でもこの後、ミラージュは城で務める侍女教育を受けなければならないそうで後数時間は会う事が叶わないという。
ソファに座ってゴロゴロしていた私はつい独り言を呟いてしまった。

「ふぅ……退屈ねぇ……」

その時。

グウ~……

お腹が鳴ってしまった。時計を見れば、もう午後2時になろうとしている。

「お昼ごはんは出ないのかしら? それとも忘れられているっ!? いやいや……それ以前に私とミラージュの荷物は何所へ行ってしまったのかしら?」

部屋をキョロキョロ見渡しても私とミラージュのトランクケースが見当たらない。

「どうしよう……困ったわ……。あれには私とミラージュの服が入っているのに」

そこで私はあることに気が付いた。

「そうよ! このお部屋にはこんなに沢山のクローゼットがあるじゃないのっ!」

喜び勇んで、私は1つ目のクローゼットを開けた。

ガチャリ

「……う、嘘……空っぽだわ……」

気を取り直して次のクローゼットを開けてみる。

「え……? こ、ここも……」

「ええい、ならば! ここにあるクローゼットと並べられている全てのチェストを開けてみるまでっ!」


そして私は次のクローゼットに向かった――



「う、嘘でしょう……何も着る服が入っていないなんて……しかも下着の替えすらないわ……」

思わず床にへたり込んでしまったその時。

――コンコン

ドアをノックする音が聞こえてきた。

「は、はい。どなたですか?」

床にへたり込んだままドアに向かって声を掛けると返事が聞こえてきた。

「私です、メイド長です」

おおっ! 何てタイミングがいいのだろう!

「どうぞっ!」

立ち上がりながら元気よく返事をすると、失礼致しますと言いながらメイド長が部屋の中へとやってきて……私の姿を目にして驚きの声をあげた。

「まあ! レベッカ様。まだそのお召し物を着ていらしたのですか?」

「ええ、そうなのよ。だって私とミラージュのトランクケースは行方不明だし、チェストもクローゼットの中も空っぽなんですもの」

その言葉にメイド長は顔色を変えた。

「まあ……何て事っ! 私はメイド達にレベッカ様のお部屋に荷物を運び、クローゼットとチェストの中には衣装を入れておくように命じてありましたのに。連絡が不行き届きで申し訳ございませんっ!」

メイド長は必死に頭を下げて来る。

「ああ……いいのよ、それ程気にしなくても……でも……と言う事は私は服を頂けると言う事よね?」

「ええ当然ですっ! もうレベッカ様はアレックス王子様の妃となられたお方ですから!」

「はぁ……」

しかし、そう言われても私は少しも実感が持てない。まあ当然と言えば当然だけども。何しろ肝心の結婚式にアレックス王子は現れないのだから。でも、それよりも一番肝心な事がある。

「あの……服もいいけれど、お昼は出ないのかしら? 流石にお腹がすいてしまったわ」

「えっ! い、今……何と仰られましたかっ!?」

「え? だからお昼は出ないのかしらと……」

「こ、これは大変申し訳ございませんっ!! メイド達にレベッカ様にお昼を用意するように命じたのに……何っにも! 伝わっていなかったのですね!?」

「え……? そ、そうなんですか!?」

こ、これは……もはや私は他のメイド達に嫌がらせを受けていたと言う事? 完全に無視されていたと言うわけ!?

これはゆゆしき事態かも……。

私はこの城で無事に生き残っていけるのだろうか?
一抹の不安が頭をよぎる。

「本当に申し訳ございません! メイド達にはきつく叱っておきますから、どうかお許しを……!」

「あ……いいわ、そんなに怒らなくても」

だってそんな事をしたらより一層メイド達の反感を買ってしまう。それだけは絶対に避けたいところだ。

「それで本当は今すぐお昼をと言いたいところなのですが……実はアレックス王子がお呼びなのです。申し訳ございませんが今からご案内しますので、すぐにお越し頂けますか?」

「え!? アレックス王子が私を呼んでるの!?」

何と! ここまで放置されていたので、もう二度と? お呼びはかからないかと思っていたのに。

「分かりました! お呼びとあれば例え火の中、水の中でもどこへでも参りましょうっ!」

「そ、そこまで大げさなものでは……それではこちらへどうぞ」

そして私はメイド長に案内されてアレックス王子の部屋へと向かった

不安と期待を胸に抱きながら――