「へ~君はドラゴンだったのか。でもどこかで聞いたことがあるなぁ。ドラゴンの中でも特に優秀な血族がいて、彼らは人間の姿にもなることが出来るって。それにしても誇り高きドラゴンが人といっしょにいるなんて……」

サミュエル王子は感心したように私とミラージュを交互に見る。人と一緒に……そこで私とミラージュは視線を合わせて、にっこり笑う。私はただの人ではないけれども、サミュエル王子はミラージュがドラゴンの化身だった事にも驚かなかったのだから私の真実を知ってもきっと彼なら多分驚かずに今まで通りに私に接してくれそうな気がする。

「それで君たちはこれからどこへ行くんだい? もうオーランド王国もグランダ王国も滅んでしまった。行く当てはあるのかい?」

「う~ん……サミュエル王子は行く当てはあるのですか? もう国には戻るつもりはないのですよね?」

「ああ、そうさ。俺はレベッカを攫った後は放浪の旅に出るつもりだったのだから。ただし一生レベッカの傍を離れるつもりは無いけどな?」

サミュエル王子はウィンクする。

「私だって一生レベッカ様のお傍にいるつもりですからね! 私の居場所はレベッカ様の隣と心に決めているのですからっ!」

フンと力を込めるミラージュ。

「ありがとう、ミラージュ。私も同じ気持ちよ」

そしてサミュエル王子を見た。

「私達、まずは東を目指して旅に出ようと思っているんです。実はガーランド王国へ行った時に、途中で素晴らしい村に立ち寄ったんですよ。アマゾナって言う女性がそこの村の村長をしているんです。しばらくそこに滞在してから、再び旅に出るつもりなんです」

「そうか。世界中を旅するつもりなんだな?」

途端にサミュエル王子の目がキラキラとまるで少年のように輝きだす。

「そうですね。世界中を旅するつもりです」

まぁ...…最終的な目的地を今は言えないけども。いずれはサミュエル王子に伝えてもいいかな?
彼なら信頼できるような気がする。だって今までにミラージュの正体を知っても驚かなかった人はサミュエル王子だけだったのだから。

「それにしても君たち、すごい荷物だな。一体どうやってこれを持って旅に出るつもりだったんだい?」

サミュエル王子は私たちの足元に転がっている20個ばかりのトランクケースを見つめる。

「う~ん……実はグランダ王国の馬と荷台を拝借しようと思っていたのですけど……」

私は瓦礫と化した背後の城を見つめた。

「ええっ! 城があんな状態で馬と荷台の用意なんて無理じゃないのか!?」

サミュエル王子は驚く。
しかし、ミラージュは無言で私を見ている。うん、ミラージュは私の力を信じてくれている。

「……うまくいくかは分かりませんが、試してみようと思います」

私は口に指を当てると、高く高く口笛を吹いた。

ピーッ!
ピーッ!


すると――

馬のいななきと、ガラガラと大きな音を立てて何かがこちらに近付いて来る音が聞こえて来た。
見ると、荷馬車を引いた2頭の馬がこちらへ向かって猛スピードで走ってきたのだ。

「うわっ! 荷馬車が勝手にこっちへ向かってくるぞっ!? ひょっとして今の口笛でこの馬車を呼んだのかい?」

サミュエル王子が驚いた様子で私を見る。

「ええ、まあ……そんな所ですね?」

「へ~レベッカ。やっぱり君は凄い人だったんだね? 初めて会った時からその度胸の凄さに驚かされたけど。何せドラゴンの化身と友達なんだから」

サミュエル王子は笑いながら私を見る。ミラージュと友達……今まで誰一人、私とミラージュの関係をそんな風に言ってくれる人はいなかった。思わず感動してサミュエル王子を見ると、ミラージュもポカンとした顔で王子を見ていた。

「よし、それじゃさっそく馬に乗って出発だ。俺が御者をやるから2人は荷台に乗るといい」

サミュエル王子はひらりと御者台に乗ると笑顔を向けてきた……。

****

ガラガラガラガラ…

走る荷台の上でミラージュが話しかけてきた。

「やりましたね、流石はレベッカ様です」

うん、私が力を発揮出来るのはミラージュのお陰。私は、私を信じてくれ力が強ければ強い程に自分の力をより強く発揮出来る。
私はそばに立つミラージュの手をギュッと握り締めた。

「ありがとう、ミラージュ。これからもよろしくね?」

するとサミュエル王子がこちらを振り向く。

「レベッカ、俺の事も忘れないでくれよ?」

「ええ! 勿論ですっ!」

まずはアマゾナの村へ行こう。彼女はどんな顔をして私を迎えてくれるかな?
青空を見上げて思った。

うん、きっとこの2人と一緒なら、お母さまを見つける事が出来る気がする。

私は始まったばかりの旅に思いを馳せた――


<完>