「言いたい事はそれだけですか?」

私は全身から込み上げてくる怒りを抑えながら尋ねた。

「あ? ああそうだ。ではおいでレベッカ。すぐに国一番の仕立て屋を呼ぼう。そなたの様に愛らしい女性はどのようなウェディングドレスが良いかな?」

私の方に手を伸ばしながら語り掛けてくる。
国王の言葉に再び全身に鳥肌が立ってしまった。隣のミラージュなど、ショックのあまり魂が半分近く抜け切っているように見える。

「冗談じゃありません! 例え世界が滅亡して、人類が貴方と2人きりになってしまったとしても……絶対に貴方となんか結婚しませんっ! そんな事になるくらいなら……いっそ、この国を滅ぼしますっ!」

「レベッカ様っ!?」

ミラージュは興奮気味に私を見た。
その瞬間、私の身体から青白い光が放たれ、次々と眩しい光が地面に吸い込まれていく。それと同時に城全体が激しく揺れ始めた。

ゴゴゴゴゴ………ッ!

どこからともなく激しい地響きが聞こえてくる。

「地、地震だっ!!」

国王が慌てふためいて辺りをキョロキョロ見渡す。

「陛下っ! あ、危ないですっ! 早く外へっ!」

大臣が国王の腕を掴む。

「うわあっ! し、城が崩れるぞっ!」

「逃げろーっ!」


城の中は騒然となった。悲鳴を上げながら次々と城の外を目指して逃げまどう無数の人々。天井、壁、床が激しい音を立てて崩れてゆく。

「レベッカ様っ!」

ミラージュの身体が光り輝き、一瞬で青く輝く巨大なドラゴンへと変身する。

「ミラージュッ!」

ミラージュは全ての荷物を大きな右手で握りしめ、左手で私の身体をそっと掴み、背中に乗せる。

「ウワアアッ! ド、ドラゴンだっ!!」

「本物だっ! 本物のドラゴンだっ!」

逃げまどいながらミラージュの本来の姿に恐れおののく様子が彼女の背中から見えた。

「ミラージュ、ここはうるさ過ぎて堪らないわ。早く城の外へ出ましょう」

<はい、レベッカ様。しっかり掴まって下さいねっ!>

バサッ!

ミラージュは大きな翼を広げるとフワリと浮き上がり、空を飛んだ。そして次から次へと降って来る城の瓦礫を潜り抜け、口から必殺技の超音波を放った。

キイイイイーンッ!!

耳をつんざくような激しい超音波は一瞬で城に大穴を空けて、城の壁のほとんどを吹き飛ばし、私たちの眼前にはまるでこの世の終わりのような光景が姿を現した。
外はいつの間にか赤黒い雲に覆われ、雷鳴が轟き、ところどころで稲妻が光っている。外に出ても激しく地面が揺れているのが上空から見て取れた。さらにグランダ王国で一番標高の高い山頂では黒い煙を噴き上げているし、波は激しく荒れ狂っている。

バサバサと空中を旋回しながらミラージュが語りかけてきた。


<なかなか凄い光景ですね。実に10年ぶりでは無いですか。ここまでレベッカ様が怒りを爆発させたのは>

「ええ、そうね。あの国王の言葉が無ければ私だってここまで激怒する事は無かったのに・・…・せめて私に親切にしてくれた人達や、無関係の人たちの無事を祈るばかりよ」

私は両手を組んでそっと祈った。すると私の身体が光り輝きだした。やがて徐々に波は穏やかになり、黒い雲は消え去り、なぎ倒された木々と、無残にも崩れ落ち、廃墟となった城が後に残された。それらをボロボロになった姿で茫然と見つめる王宮に勤めていた無数の人々。

ちなみに……愚かな国王や王子たち、そしてリーゼロッテの行方は……不明。


<レベッカ様、それではこれからどうしましょう?>

すっかり晴れわたった青空の下、私を背中に乗せたままのミラージュが尋ねてきた。

「そうね。もうこの国は復興するのに、恐らく何年もかかるでしょうね。それに私はもうこの国の人間では無くなったのだから、いつまでもこんな場所にいてもしょうが無いわ。とりあえず東へ向かいましょう!」

そう……東に行けばアマゾナ達の村がある。まずはその村へ行き、そこからお母さまを探す旅に出よう!

<分かりました! 東ですねっ!?>

ミラージュが翼を広げて飛び立とうとしたその時――

「レベッカ!? 無事だったのかっ!そ、それに……そのドラゴンはっ?!」

背後で声が聞こえ、私とドラゴンの姿のミラージュは振り返った――