2人でアレックス 王子の部屋へ向かいながらミラージュが教えてくれた。

「レベッカ様。ご存じでしたか? ついにオーランド王国が滅亡してしまったそうですよ。国民たちは他の国へ難民として逃げ、王家は皇帝から取り潰されてしまったそうです」

「そう……皇帝から。それじゃお父様やお姉様たちはみんなどうしたのから?」

「それが、噂によるとどうやら持てる財宝を持って逃亡したらしいです。多額の負債を返納する為に皇帝に命じられていたにも関わらず」

「酷い話ね。王族として何の教育も受けさせなかった私を半ば脅迫してこの国に嫁がせたくせに。1年離婚しないでいられたらお母さまの居場所を教えると約束しておいて逃げ出すなんて……」

「ええ、全くその通りですよ。これではもう約束を果たす事は望めないでしょうね?」

ミラージュも頷く。

「そうね。お父様が行方不明になったのなら私がここにいる意味は無いって事ね? もう義理を果たす必要はなくなったわ」

「私は何処までもレベッカ様について行きますよ」

「ありがとう、ミラージュ」

私は笑みを浮かべた――


****

ゴンゴンゴンゴンッ!

ミラージュが乱暴にドアをノックした。

ピシッ!

ドアに亀裂が走ったが、そんな事はどうでもいい。

「誰だっ! ドアにひびが入っただろう!?」

案の定、部屋の中で喚く声が聞こえて乱暴にドアが開けられた。

「どうも、アレックス様」

ドアの前に立つ私とミラージュと目が合うアレックス王子。

「ヒクッ!」

喉の奥でアレックス王子が妙な声を上げる。まあ、それはそうだろう。アレックス王子は胸が大きくはだけたローブをだらしなく羽織っているのだから。中で何をしていたのかは容易に想像がつく。

「こんにちは、お部屋の中に入らせて頂きますよ」

背の低い私はアレックス王子の脇をすり抜けて部屋の中へと足を踏み入れた。

「お、おいっ! 勝手に人の部屋へ入るなっ!」

「何ですか? 何か文句でもあるのですかっ!?」

私の背後に続いたミラージュがジロリと威圧する目で睨み付ける。

「ヒッ!」

流石は、ミラージュ。アレックス王子は顔が青ざめる。部屋の中に入るとベッドから悲鳴が上がった。

「キャアアアッ!! あ、貴女たち……よ、よくも私の前に平気で現れたわねっ!?」

リネンを裸の身体に巻き付けてベッドの上にいたのは、やはりリーゼロッテだった。

「それは私の台詞よ。リーゼロッテ。昨夜私にあんな事をしておいて、もうすぐお昼ご飯の時間になるというのに……。今も私がいる城で図々しくアレックス王子のベッドの中にいるのだから」

「何? あんな事? 一体それはどんな事だ?」

ビクビクしながらアレックス王子が質問してきた。

「知らなかったのですか? 昨夜リーゼロッテは私を拉致して紐でぐるぐる巻きにした挙句、滝壺に落として殺そうとしたのですよ?」

「な、な、何だってっ!?」

アレックス王子の顔が増々青ざめる。

「おや? アレックス王子……顔色が悪いですね? ひょっとして私を殺すように誰かに命じたのですか?」

「ば、馬鹿言えっ! お前にそんな真似をするように命じるはずないだろうっ!?」

やはりアレックス王子は私が怖くて手が出せないのだ。

「それでは滝壺に落とされたのに無事だった私に驚いているのですか?」

すると案の定アレックス王子は黙ってしまった。

「そ、そうよっ! 大体どうして無事なのよっ! あんな滝壺から落とされたくせに……!」

リーゼロッテが喚く。……ちなみに彼女と愛人たちは昨夜のドラゴンの事を覚えていない。何故なら私がばっちり記憶を消させてもらったからだ――