結局、この日の夜――

久しぶりにドラゴンの姿に戻った事で解放感を得たミラージュは私を乗せて空を飛び回り、城に戻ったのは真夜中の12時だった。
城に着くと私の部屋で交代でシャワーを浴びて汚れた身体をすっきり綺麗にした後、今後の方針についてミラージュとお酒を飲みながら話し合いをした。

その後、私とミラージュは同じベッドで泥のように眠りに就いたのだった――


 翌朝――

眩しい太陽が顔に当たり、私は思い切り伸びをした。

「う~ん……」

そして私の隣にはまるで猫のように身体を丸めて眠るミラージュの姿がそこにあった。こんな可愛らしい寝姿なのに、実際のミラージュの正体はドラゴンなのだから驚きだ。

「今何時かしら……」

目をゴシゴシこすり、時計を見ると時刻は午前10時を過ぎている。

「え!? 嘘っ! もうこんな時間……? と言うか、何故誰も起こしに来てくれないのかしら?」

時間が分かった途端、私のお腹がぐう~と派手な音を立てて鳴った。

「うう……お腹が空いたわ……考えてみれば昨夜は何も食事をとっていないんだもの……」

「う~ん……」

するとミラージュも目を覚ましたのか、ベッドの上でもぞもぞと動き、やがてムクリと起き上がった。

「あ……おはようございます、レベッカ様」

「おはよう、ミラージュ。どう? 今朝の気分は?」

「はい。久しぶりに元の姿に戻りひと暴れしたので身体も心もすっきり爽快です」

ミラージュは満足げに笑みを浮かべた。

「そう、それは本当に良かったわ。えっとね……それでミラージュ」

コホンと私は咳払いをした。

「はい、何でしょう?」

「あの……頭から角、生えてるから」

「え……? きゃあああっ!?」

ミラージュは自分の頭に手を当て、悲鳴を上げた――


****

「えっ!? レベッカ様、昨夜から何もお食事を召し上がっていらっしゃらないのですかっ!?」

洋服に着替え、ソファに腰かけたミラージュが驚きの声を上げる。

「ええ、そうなのよ。折角昨夜ランス王子にディナーに招待されて、サミュエル王子と3人で頂く事になっていたのに、リーゼロッテの策略にはまって拉致されてしまったばかりに食べ損なってしまったのよ。おまけに朝ごはんだってまだ食べていないし……」

「まあ、それはいけませんねぇ……。早くメイド達に話を付けて朝食の用意をさせないと」

そしてミラージュは悔しそうにスカートを握り締めた。

「くっ……そ、それにしてもあのリーゼロッテめ……ただの人間風情がよりにもよって大胆にもレベッカ様を拉致、殺害しようなどと……」

すると、途端にミラージュの頭から引っ込んでいた角がニョキッと出て来た。

「駄目よ、落ち着いて。ミラージュ、また角が飛び出てしまったわ」

「ええっ!? ま、またですか……?」

ミラージュはいつものように深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、角をひっこめる。

「とにかく、まずは朝食を用意して貰いましょう! 私もお腹ペコペコですっ!」

ミラージュが立ち上がったので私もついて行く事にした。
ドアを開けると、ちょうどいい所に2人のメイドが廊下の掃除をしていた。

「貴女たち、掃除も良いけど何故いつまで経ってもレベッカ様のお食事が出てこないの? ついでに私の分もだけどね」

ミラージュがジロリと睨むと、2人のメイドはいきなり床に座り土下座してきた。

「も、も……申し訳ございませんっ!」

「アレックス王子に、もう今後一切お2人には食事の用意をするなと命じられたのです……!」

「「本当に申し訳ございませんっ!!」」

ブルブル怯えて震える2人のメイド達。

プツン

私の中の何かが切れる音がした。

「いいのよ。貴女たちは命令にやむを得ず従っているだけだから。もう行っていいわ。掃除の邪魔をしてごめんなさい」

冷静さを保ちつつ、私は震える2人に優しく声をかけた。するとメイド達は頭を下げて逃げるように走り去って行く。

それにしてもアレックス王子め……。あれほど畏怖の念を植え付けておいたと言うのに、ついに私の怒りに火をつけてくれたわね?
私のそんな気配に気づいたのか、ミラージュがウキウキした様子で話しかけてきた。

「レベッカ様、これからどうします?」

「……決まっているじゃない。ミラージュ。アレックス王子の処へ行くわ」

私はコクリと頷いた――