受け取った小箱には、赤いリボンがかけられていた。
 指輪かとドキッとする。だけどリボンを解いて箱を開けると、中から腕時計が現れた。

「これは……?」

 文字盤やリューズにダイヤモンドが贅沢にあしらわれた、クラシカルなレディースウォッチ。
 手首を華奢に見せてくれるバンド部分も洗練を感じさせ、身につけるだけでランクアップしそうな雰囲気が漂う。
 東堂時計のものであるのは聞かなくともわかった。

「三年前に手配した。当時、フルオーダー品として限定生産されたラインだ。あのときは君への感謝の気持ちで手に入れたんだが、今も感謝の気持ちは変わらない」

 時計をしげしげと見つめる私の腰に、嶺さんがゆるく腕を回す。

「まだしばらく指輪をつけられないなら、せめてこれをつけてほしい。これなら、会社でつけても自社製品を買っただけだと思われる。問題ないだろ」

 優しい声が私の耳を撫でて、私は驚きに放心しながらも時計を裏返した。おもわず息をのむ。
 文字盤の裏側には、三年前のまさしくあの日付が刻まれていた。
 ――すべてが始まった日。