「パーティーって、創業記念のですか?」

 今年は東堂時計の創業七十周年を記念して様々なキャンペーンが展開される予定だ。そのいちばんの目玉として、日頃の感謝をこめて得意客や取引先を招いて創立記念パーティーが開催される。

「ああ。東堂家は全員パーティーに参加予定だ。君さえよければ、終了後に引き合わせる」
「ありがとうございます、ぜひ……!」

 軽く頭を下げてタブレット端末に視線を戻すと、共有カレンダーのパーティー当日の欄には、すでに顔合わせという件名も登録されていた。嶺さんが登録したのは疑いようもない。
 涼しい顔をして、この短時間のうちに登録してくれたのかと思うと、頬がゆるんだ。
 と同時に緊張する……!
 三年も挨拶に来なかった嫁なんて、心証は最悪に違いない。少しでも信頼を回復しないと。

「ちなみにお義母様やお義姉様たちは、事情をご存知ですか?」
「知らないはずだが、知ったところで文句を言われるのは俺だ。知沙は心配しなくていい」

 そう言われても、嶺さんが責められるのも見たくない。

「でも、私もきちんと私の気持ちをお伝えしますね。きっかけはどうであれ、今の気持ちに嘘はないですし。大事な人の大事なご家族ですから、皆さんと仲良くなりたいです」

 緊張するし怖いけれど、嶺さんの家族に会えるのは純粋に楽しみでもある。声が弾むと、ややあってから嶺さんがさらりと零した。

「……結婚したのが、君でよかった」
「私もです」

 顔が熱くなって、気恥ずかしさからうつむきがちに返す。
 ほんとうに、嶺さんでよかった。
 契約結婚をするほどだから割り切った考えの持ち主かと思っていたけれど、実は情の深い、情熱的な人。
 そんな嶺さんを知ることができて、好きになって……これからもっと、好きになる予感がある。

「創立記念パーティーも、絶対に成功させましょうね。私、もっと頑張りますから」
「ああ、よろしく頼む。公私とも、ますます知沙を離せなくなりそうだ」

 細められた目が、蕩けそうに甘い。この目を向けられるだけで、なんでもできる気がする。
 だからなにも問題ないはず。

 このとき私はそう思っていた。