ここからまた始まるんだ。
 今さらでばつが悪いけれど、同時にくすぐったくもある。すっきりと心が晴れやかになる予感もある。
 くすくすと笑ったら、嶺さんが私のこめかみにキスをした。それから、唇にも。

「そろそろ本題に戻るか」

 ()(らち)な手が思い出したように、私の腰のなだらかな曲線を撫でる。ぴくんと肩が跳ねた。

「ほ、本題って」
「まだ俺の腕の(ここ)から出ていくな。君がいるとよく眠れるから」

 それは私がいるからじゃなくて、今も続いている毎晩のハーブティーのおかげだと思う……けど。
 私を見下ろす嶺さんの目からは、欲情だけじゃなく甘えてくれている雰囲気も伝わってきて。
 一緒にいたいと思われていることに胸をくすぐられて、屈してしまった。

「あと、少しだけですからね……」

 少しどころか、嶺さんは出勤に間に合うギリギリまで私を離してくれなかった。




 遅れるのではないかとひやひやする私とは真逆に、嶺さんは悠然とした態度で社用車に乗りこんだ。嶺さんは車内でも仕事をするので、彼が集中できるように私は助手席に座る。
 爽やかな紺のスーツを着た嶺さんは、夏真っ盛りなのに平然としていて暑さを少しも感じさせない。それどころか、会社のトップにふさわしい(たたず)まいを感じさせる。
 この人が私の夫だなんて、夢みたい。