その意味を深く理解するより先に、私は嶺さんを見あげてかぶりを振っていた。

「っ、違いません」
「よかった」

 嶺さんが極上の笑顔で、心から安堵したふうに息をつく。
 たまらない気分が喉元までせりあがって、私は伸びあがって嶺さんの肩口に頬をすり寄せた。
 胸がきゅうっと、甘やかに鳴り始める。
 どうしようもなく嶺さんが必要で。そばにいてほしくて。そう思うだけで、涙が出そうで。

 ――私ひとりじゃ、この気持ちを手に負えない。

「嶺さん」

 その先を続けられずに口ごもると、嶺さんが涼しげな目を切なそうに細めて私を見つめた。
 嶺さんの手が私の横髪を梳きながら、首裏に回る。部屋の空気が濃やかになった気がした。
 頭に手を添えられて、派手に騒ぐ心臓をなだめることもできないまま嶺さんを見あげる。嶺さんが頭を傾けて……薄い唇が、私の唇に重なった。
 最初は軽く当てる程度。それから一度離れて、またすぐに重ねられる。
 嶺さんの唇で、私の唇がふにゃりと潰れる。
 触れた場所がほのかに熱くなって、その熱が頭の芯まで溶かしそう。

「知沙、俺は君が――」

 キスの合間に紡がれた、かすかに艶を帯びた声に()(まく)が震える。
 そのとき、嶺さんのスマホが振動する音が割り込んだ。




 不破さんは受け取った車の鍵のついたキーホルダーを指先でくるくると回しながら、嶺さんと私を交互に見てしたり顔をした。

「羽澄さん、知ってた? こいつ、羽澄さんのメッセージを見るなり、自分付きの運転手を呼ぶ暇すら惜しんで僕の車を強奪したんだ。あのときの焦った顔を羽澄さんにも見せたかったな」
「嶺さんがですか……?」