労りのこもった声が耳に届いたら意識するより先に視界がにじんでしまって、私は焦った。嶺さんにこれ以上、迷惑をかけたくない。こらえなきゃ。
 私は素早くまばたきを繰り返して、涙が零れないよう散らす。
 伸びてきた嶺さんの指先が、私の頬に触れた。するりと撫でられる。

「我慢しなくていい」
「ぅ……すみませ……」

 こらえきれず細い声が漏れたとき、大きな手に肩を引き寄せられた。
 とん、と嶺さんの胸に頭が当たる。爽やかでほっとする嶺さんの匂いに包まれたら、とうとう涙が零れ落ちた。
 嶺さんの服を汚してしまう。離れなきゃ。
 頭ではそう思うのに、手は勝手に嶺さんのシャツをすがるように握りしめる。離れるのは不安だとでもいうように。

「今日もし知沙からのメッセージが来なかったらと思うと、ぞっとするな」
「でも、呆れてませんか? 形だけの夫婦なのに結果的に呼び出してしまって……」
「俺は今、君を抱きしめられてよかったと思う」

 背中に嶺さんの逞しい腕が回って、深く抱きこまれた。普段の私なら、動揺と羞恥で軽くパニックになっていたと思う。
 けれど今は、嶺さんのぬくもりに安心をもらえるほうが強い。

「俺はこれからも、君が必要なときに抱きしめられる関係でいたい。君さえ離婚を撤回してくれれば、それが叶うように思うんだが」

 一瞬なにを言われたのか理解できず、私は嶺さんの腕の中で目をしばたたいた。
 ああそうだった。私は嶺さんと離婚しようと思っていて……。

「君も俺を必要としている。と、俺はとらえているんだが。違うか?」

 嶺さんの言葉がまっすぐ私の中に入ってくる。