車を二十分ほど走らせて着いた場所は、特徴的な外観をした海辺のホテルだった。
 詳しくはないけれど、こういうところってコーヒー一杯で二千円くらいするんだよね?

 ゴージャスながら品のある内装は、ビジネスユースではなく特別なときに特別な人と来たいと思わせる洗練された雰囲気がある。
 ところがお茶でもするのかと思いきや、嶺さんは海に面したロビーラウンジには目もくれず、フロントに向かった。

「――こちらが鍵になります」

 フロントで話をする嶺さんのうしろにいた私は、そのスタッフの言葉に変な声を上げかけた。脈がドクドクと乱れだす。

「嶺さんっ? どうしてお部屋なんか」

 まさか、泊まるんじゃないよね?
 動揺が顔に出た私に、嶺さんが小さく笑った。

「いつかは宿泊するのもいいな。だが、今日はそうじゃない。とりあえず部屋に行こう。すぐ用意するそうだ」
「用意?」
「おいで」

 ごく自然な仕草で手を取られ、エレベーターで客室に向かう。
 シンプルなTシャツと黒のパンツ姿でさえ華のある嶺さんと違って、ジーンズを穿()いた私は場違い感が否めないけれど。
 無意識に肩を縮めながら嶺さんが開けてくれたスイートルームに足を踏み入れた私は、言葉を失った。

「わぁ……」

 海に面した二方がガラス張りになっていて、その向こうには夏の日差しをたっぷりと受けた(こん)(ぺき)の海が広がっていた。
 部屋の調度品は白を基調として差し色に海を思わせる紺碧の色を使ったもので統一されており、爽やかで心地のよい空間だ。
 こんな場所、リアルにあるんだ……。
 贅沢な眺めに圧倒されていると、入口が騒がしくなった。ふり返るとちょうど嶺さんが誰かを中に入れているところで、私はたちまち混乱した。