雨は予報どおりいつのまにか上がっていて、雲の晴れ間から差しこむ太陽の光が街路樹の葉に残った雨粒をきらきらと輝かせている。
 嶺さんが不破さんに借りたという車を停めた場所まで、観光名所がぽつぽつと立つ細い道を歩く。
 嶺さんは無言だった。横顔が心なしか普段より険しい。

「さっきは、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。怒ってますよね……」
「いや、考えごとをしていただけだ。謝らなくていい」

 それきり嶺さんはまた口をつぐむ。けれど、私のトートバッグを代わりに持ってくれた歩調は、嶺さんひとりのときよりもずっとゆっくりだ。
 考えごとなら邪魔しないほうがいいかと思ったけれど、やっぱり気になって私はふたたび口を開いた。

「今日はどうして来てくださったんですか……?」
「君がそれを聞くのか?」

 嶺さんはいぶかしそうに私を見て立ち止まると、ポケットからスマホを取りだした。タップしてSNSのトーク画面を私に見せる。

【嶺さんを】
【呼んでも……いいですか?】

 思わず赤面した。

「知沙が送信したんじゃないのか」
「もっ、もちろん私ですし私が書いたんですが、でも」

 言いながら、心臓が騒ぎだす。
 あのときは考えるより先に指が動いたから、詳しく説明する余裕もなかったのに。

「あれだけで来てくださったんですか……!?」

 どれだけ不安や心細さで押し潰されそうでも、ずっとひとりで対処するのが当たり前だった。ほかの選択肢なんて知らなかった。
 だけどあのときは、気づいたら指が動いていて……。

「不安なら呼べと言ったのは俺だから。このメッセージはそういう意味だろうと思って、焦った」

 嶺さんが見せてくれた画面には、未読になったままの嶺さんの返信も残っていた。

【すぐ行く。場所は?】