私がこれまで、必要以上に怯えていただけだったのかも……。

 これからも身内であることには変わりないんだから、変にかまえずに接しよう。なんだか、伯父さんにも申し訳なかったな。
 私は肩の荷が降りた気分で、弟の近況も併せて伯父さんに報告する。
 弟からは、今朝ちょうどメッセージがきていた。そのとき話のついでで伯父さんと会うと言ったら、よろしく伝えてと言付けられていたのだ。
 そこからは、意外にも和やかな時間を過ごすことができた。
 もっと早くこうすればよかったのかもしれないけど……でもとにかく、これで正解だったよね。

 空になった紅茶のカップを見ながら、私はいつになくすっきりした気分で伯父さんに頭を下げた。

「今日は、ありがとうございました。残りのお金は、あらためて伯父さんの口座に……」
「毎月一万円。それで手を打とう」 スマホがバッグの中で何度か振動する。けれど私はその言葉で思考が止まって、スマホを取ることができなかった。

「毎月、きっかり一万円を知沙が私に返しにおいで。直接の受け渡しでしか、受け取らないよ。これからは、知沙から連絡すること。それで受け渡しの日を決めよう」
「それは困ります!」
「駄々をこねるのはよくないよ。私の厚意を借りに変えたのは、知沙だ。それなら貸した側が、受け取りかたを指定する。当然の権利じゃないか」
「そ、れは……」

 バッグを抱えこんだ手がかすかに震える。どうしよう。まさかこんなことになるなんて。
 どうすればいいのか、なにも考えつかない。どうにかしないといけないのに。
 月一万円だったら、全額返し終えるのにどれだけかかる? それまで毎月、伯父さんとふたりで会うの?
 もしも私が連絡しなかったら……ワンピースを着なかったときのように、逆上される?

「親子は死ぬまで親子だろう? 知沙、私たちもおなじだ。死ぬまで伯父と姪であることに変わりはない。簡単に縁が切れると思ってほしくないね」

 全身が強張って、血の気が引いていく。指先が紙のように白かった。
 ずっと……このままなの? これだけ言っても、伯父さんから離れられないの?
 伯父さんは愉悦すら浮かべて、ゆったりとコーヒーを飲み干す。そのときだった。

「――知沙、遅くなった」

 すらりとした長身の男性が肩で息をしながら、伯父さんの視界から私を隠すようにテーブルに手をついた。