『……チョコレート?』

 乳白色のやわらかな色合いをした皿の上には、エディブルフラワーの砂糖漬けが飾られた、宝石かと思うような艶々としたひと口サイズのチョコレートが花束のようにいくつも並んでいる。

『落ちこんだときには、甘いものが効く。と、姉が言っていた』
『私に?』

 声が上ずって、私は皿の上のチョコレートを凝視した。
 秘書をしていると、自然とおもたせには詳しくなる。このチョコレートは(ぎん)()のハイジュエリーを扱う宝飾店が新たに展開を始めたカフェで、特別な客にだけ販売されているものだ。
 一粒でゼロが四つ付くという恐ろしい値段設定でありながら、常に入荷待ちが続く入手困難な幻の逸品であることも、知識として知っている。
 だけどそんな高価なものを……違う、値段は関係ない。
 嶺さんがわざわざ買いにいったの? 私のために?

『どうしてそんなに甘やかしてくださるんですか……? 見損なわれてもおかしくないのに』
『上司として言うべきことはすでに言った。だが今は、君の夫だ。それにあれが知沙のミスという結論には疑問がある』
『え?』
『いや、今はまだ確証がないからいい。それはともかく、ほら、食べてくれ』

 嶺さんが職場の人の前では感情の読み取りにくい顔をやわらかくして、隣の席に腰を下ろした。

『ありがとうございます。食べるのがもったいないですね』
『わかった、明日も買ってこよう。そうすれば、もったいないなどと考えることもない』
『いえいえ! これだけでじゅうぶんです』

 冷や汗をかきながら言うと、嶺さんが声に出さずに笑う。
 胸がきゅうっと反応するのは気のせい……だよね。
 と、だしぬけに嶺さんがチョコレートを一粒取りあげる。嶺さんも食べるんだ、と思うまもなく、私の唇にチョコレートが押し当てられた。