まぶたがゆっくりと押しあげられるのを、じっと見守る。
 焦点の合わない目がまたたいて、私をとらえる。嶺さんが大きく目を見開いた。

「っ、すまない。いつのまにか寝ていた」

 嶺さんが勢いよく体を起こす。気まずそうにするのがかわいく見えて、私は嶺さんが寝ているあいだハンカチであおいでいた手を止めた。

「いえ、たまには時間を忘れてぼうっとしましょう? そのために来たんですから」
「君は退屈だったろ、どれくらい寝ていた?」

 言いながら、嶺さんが腕時計を見て顔をしかめる。
 嶺さんが眠ってから、一時間が過ぎていたからだろう。

「私はのんびりするの、好きですよ。ここなら、一日じゅうでもいられます。それより、嶺さんはよく眠れなかったのでは……」

 言いながらじわりと耳が熱くなって、語尾がかすれる。偶然とはいえ、肩を貸すだけのつもりが大胆なことをしでかしてしまった。

「日中に眠れるほどだから、寝心地がよかったのは間違いない」
「や、その言いかたはなんだか……っ」

 どうにも生々しい連想をしてしまって、いたたまれない。

「そうか。素直な感想だったんだが。君といるとつい気がゆるんでしまうから」

 そういうところだから……!
 無自覚だから困る。経験の浅い私では軽く受け流すこともできなくて、のぼせそう。
 嶺さんの力がいい具合に抜けたのは、私のおかげというよりのどかな風景のおかげに違いない。
 けれど、なんにせよ嶺さんが休息できたならデート(と呼ぶのはまだ気恥ずかしいけれど)のかいがあったと思う。

「名残惜しいが、そろそろ帰るか」

 夏至前の空はまだほの明るいけれど、明日は月曜だ。あまり遅いと、休息のはずが疲労が残るだろう。「はい」と同意してレジャーシートを畳むと、嶺さんはごく自然にそれを受け取り私の鞄ごと持った。

「重いですよ、私が……」
「覚えておきなさい。君の荷物は、俺の荷物でもある」

 嶺さんの顔が夕陽を受けて、ほんのりと赤く染まる。まぶしくて、私は目を逸らした。