ナチュラルにととのえられた髪はやわらかく、指をするりと滑っていく。意識するなり鼓動がせわしなくなる。
 軽く力をこめて、私の肩に乗せるつもりで嶺さんの頭を引き寄せる――はずだったのに。

「……〜〜っ!」

 嶺さんの頭が傾く。と思ったときには、私の肩ではなく膝の上に滑り落ちたあとだった。
 冷や汗をかきながら嶺さんの顔を覗きこむ。さいわい嶺さんの目が覚める気配はなくて、胸を撫でおろしたけど。
 これは、なんていうか……いたたまれない!
 太ももに嶺さんの頭の輪郭を生々しく感じる。嶺さんの体温が私の中に染みこんでいく。
 どうしよう、この状態から私の肩に乗せるのは難しい。
 それに、嶺さんからは規則正しい息遣いが聞こえてくる。変に動かして起こしたくない。ゆっくり休んでほしい。

『不安になるときには、俺を呼べばいい』

 私はいたたまれないと思っていたのも忘れて、嶺さんの顔に見惚れた。
 毎晩、ベッドの端と端で一緒に眠っているとはいえ、間近でじっくり見るのはこれが初めて。
 理知的で涼やかな顔立ちは、この世にこんなに綺麗な人がいるのかと大げさでなく感嘆する。けれど見入ってしまうのは、ととのった顔立ちのせいじゃない。

 どうして、私がほしい言葉をくれるの……。

 夏の予感をたっぷりと含んだ風が吹いて、嶺さんの前髪が閉じられたまぶたにかかった。目元にすうっと陰影ができる。
 無意識に手が伸びた。
 嶺さんの髪に触れて、こめかみへ寄せる。
 指先が嶺さんの頬をかすめたとたん、指先からじんと痺れが走った。
 遠くで聞こえる子どもの歓声よりも大きな音で、心臓が騒ぎ立てる。
 こんなのは身が保たないと思う一方で、もっと近づいて、もっと触れたいと思う心が膨らんでくる。
 何度、この人に対してたまらない気分になればいいんだろう。
 私はふたたび伸ばしかけた手を止めて、ゆるく握りこんだ。