池を眺められるように配置されたベンチはいずれも先客がいて、私たちは少し離れた木陰に持参したレジャーシートを広げた。念のために持ってきておいてよかった。
 さっきの嶺さんの言葉が頭をぐるぐるしてる。
 先に靴を脱いでシートに腰を落ち着けた嶺さんの隣に、私も座る。こうしてみると、なんだかふしぎな気分だ。
 今の私たちはどんな関係なんだろう。
 夫婦だけど実態はともなっていなくて、恋人でもなくて。でもただの上司と部下でもない。

「よかったら、お茶をどうぞ」

 嶺さんが目を細めてタンブラータイプの水筒を受け取る。喉を鳴らして飲む様子が豪快だ。
 気恥ずかしくなって視線を池のほうへ向けると、五、六歳ほどの男の子がシャボン玉を吹いていた。
 男の子の隣には妹らしき女の子がいて、空に揺れるシャボン玉を追いかけている。子ども特有の、甘ったるい菓子を思わせる歓声が響き渡る。仲がよさそうだ。
 のどかな光景に、無意識に深呼吸をする。
 しばらくその兄妹とシャボン玉の行方に見入っていた私は、ふと嶺さんが無言なのが気になって隣に視線を戻した。

「嶺さん?」

 あぐらをかいて腕を組んだ嶺さんの頭が、ゆらゆらと揺れている。伏せられた目を見れば、長い睫毛が頬に影を作っている。
 ひょっとして、うたた寝してる?
 これはかなりレアなのではないだろうか。いつでも涼しげで、疲れたところさえ誰にも見せない嶺さんが、うたた寝?
 なんだか嬉しい。ドキドキしてきた。

 でも、この姿勢はキツそうだ。首が痛くなるに違いない。
 私は物音を立てないように細心の注意を払うと、おそるおそる嶺さんの頭に触れた。