さらりと告げられて固まる。嶺さんは私の心臓を止めたいの?
 話の接ぎ穂を探しあぐねてしまう。
 モーター音以外には静かになったリビングで、嶺さんの手が私の髪をまさぐる。
 色めいた気配はないのに、空気が濃密になったように思うのは気のせい?

「――こんなものか」

 嶺さんは満足そうにドライヤーを止めると、私の髪を()(ぐし)で軽く梳いた。

「これから毎晩、俺の習慣にしてもいいな」
「いえいえ、嶺さんの手を(わずら)わせるのはちょっと。自分でやります!」

 こんなこと毎日されたら身が保たない。今だって、頭を滑る指先の硬い感触に、背中がぞくぞくしているのに。

「俺に触らせたくないなら、無理強いはよくないか」

 嶺さんが声を落とすと、目を伏せてドライヤーのコードを片づける。私は焦って訂正した。

「そうじゃないです! そうじゃないですけど……って、笑わないでください。その言いかたはずるいです」

 途中から小さく笑いだした嶺さんに、子どもじみた振る舞いだとわかっていながら()ねてしまう。
 嶺さんは七歳も年上の大人で、なにを言っても敵わないけれど。

「わかった、デートするか」

 デート?

「どうしてこの流れでそんな話に」
「君を萎縮させて、俺だけが楽しんでもしかたないからな。デートであれば、ふたりで楽しめる。どうだ?」