われながらいいアイデアだ。
 以前、嶺さんからも体調管理をしてくれればいいと言われたことでもあるし。

「ちょっと待っててください」

 嶺さんを椅子に座らせてキッチンに戻り、誰にともなく「失礼します」と断って、社員寮から持ってきたハーブティーを淹れる。
 きっとこれも、これから育てていくハーブを摘めば、もっとおいしく淹れられるはず。
 湯気の立つカップを持って、嶺さんの書斎に戻る。

「リラックス効果のあるハーブティーです。どうぞ」

 言いながら、驚いた様子の嶺さんにカップを渡す。嶺さんが口をつけたのを見て、ほっとした。

「……三年前とおなじ味だな。うまい」
「覚えていらしたんですか?」
「もちろんだ」

 嶺さんの表情がやわらいで、会社では見られない顔がのぞく。リラックスしてくれたかな。
 それにしても、三年も前のことを覚えてくれているとは思わなかった。

「君は俺の中で凝り固まっていた視点も、余分な力も解いてくれる」

 そう笑う嶺さんの言葉にこそ、人の心をほぐす力がある。甘やかな気持ちにする力も。この人はそのことを知っているだろうか。
 ああもう、また……たまらなくなる。

「明日も、用意しますね」

 胸の奥底から静かにこみあげてくる気持ちの正体を掴めないまま、私は笑った。




 眠りにつく前には、嶺さんにハーブティーを差し入れする。そんなささやかな習慣が始まった。
 といっても、のんびり話しながらお茶を飲むことができる日はまれだ。
 新しい生活を始めて十日ほどになるけれど、書斎にこもる嶺さんに差し入れするだけの日のほうが多い。

「おかえりなさい、嶺さん」

 スマホに表示された【今から帰る】のメッセージから約二十分が経った夜更け。
 玄関の指紋認証によるロックが外れる電子音がして廊下に出ると、靴を脱いだ嶺さんが早くもネクタイの結び目に指をかけていた。
 つい見入ってしまう。嶺さんは、ちょっとした動作が様になる。

「……ただいま。君に出迎えられると妙な気分になるな」