私が入り口で固まるのをよそに、嶺さんは前回と同様にベッドの端に横たわる。
 とにかく、なるはやでルームウェアを買い直さなきゃ。伸びきったTシャツを着てる場合じゃないことだけはわかる。
 ベッドにいるというだけで、嶺さんからにじみ出る色気が二割り増しに見えるのは気のせい?
 平静になろうと胸を手で押さえるけれど、鼓動は速まるばかり。
 とうとう焦れたのか、嶺さんが肘をついて私を見あげた。

「俺と寝るのはどうしても無理か?」
「そういうわけではないですけど、その訊きかたはずるいです……!」

 受け入れられないのなら、ここに引っ越したりしない。

「君よりは年上だからな。ずるい手も使う」

 嶺さんは悪びれずに笑うと、もう一度私に来るよう指示する。
 ろくな反論も思い浮かばず、私はぎくしゃくと足を動かして嶺さんと反対側からベッドに入った。
 よし決めた。すぐ寝よう。
 目を閉じてしまえば乗り切れる。

「今日はなにからなにまで、ありがとうございました。ゆっくり休んでくださいね。じゃあ……おやすみなさい」

 布団を深く被って声を裏返らせると、布団越しに嶺さんの抑えた笑い声が響いた。

「おやすみ、知沙」

 鼓動が甘やかな音を立てる。まだ同居を始めた初日だけど、気づいたことがふたつもある。
 ひとつ目は、嶺さんは本気で私を甘やかしたいらしいこと。
 そしてふたつ目。嶺さんが笑ってくれると――なんだか、たまらなくなること。




 深夜二時を回ったころだと思う。
 寝室の扉が閉まる気配がして、私は目が覚めた。寝返りを打って嶺さんのほうを向くけれど、嶺さんはいなかった。
 少しすれば戻ってくるかな。
 なんとなく落ち着かない気分で嶺さんの戻りを待つけれど、戻る気配がない。気になってベッドから出てリビングに行くも、嶺さんの姿はなかった。
 ふと気づいて嶺さんの書斎を軽くノックする。

「知沙?」