コンシェルジュが手配してくれたという新しい女性物の下着を身につけ、社長の部屋着らしい長袖スウェットに袖を通す。
 ショートパンツも借りたけれど、こちらは私が着るとほとんど九分丈。社長の足の長さを思い知った。
 手早く髪を乾かして社長と替わると、私は広々としたリビングにおそるおそる足を踏み入れた。

 リビングはヴィンテージ家具がいい味わいを出す、居心地のよさそうな空間だった。床には()()(ざい)が貼られ、古きよき時代を感じさせるような革張りのソファと、軽やかさのあるローテーブルの組み合わせのバランスが絶妙だ。白い壁に駆けられたテレビも、家具の調和を壊さない工夫がされている。
 チェストの上には置き時計や腕時計の数々が飾られ、ローテーブルには業界誌が積まれている。

 ほどほどに雑然として、包みこむようなあたたかみもある。親近感が湧いた。
 意外だった。理知的で涼しげな印象の人だから、部屋の色彩もモノトーンのようなクールな感じを想像していたけれど。
 ひょっとすると、このあたたかみが社長の本質なのかもしれない。たまに見える優しい表情とおなじで。……って、なに考えてるの。
 シャワーを終えた社長が、ラフな部屋着姿で戻ってくる。職場で見るよりも色気の増した姿に思わず目を伏せると、ついてくるよう言われた。
 案内されたのは寝室だった。
 リビング同様、ぬくもりの感じられる部屋だ。部屋の中央には落ち着いた色調のクイーンサイズのベッドが一台。その横のサイドテーブルには、フロアライトからのやわらかい光が広がっている。

「今夜はここで寝るといい。じゃあ、おやすみ」

 言うなり、社長は寝室を出ていこうとする。私は慌ててふり返った。

「あのっ、社長は?」
「俺はリビングのソファを使う。だから気にせず使っていい」
「そんなのダメです! 疲れが溜まっておられるんですから、ベッドを使ってください。私はソファでも床でも大丈夫ですから」
「ひと晩くらい問題ない。君も早く寝たらどうだ?」
「社長がベッドで寝てくださるまで、寝ません。私に体調管理をしてくれとおっしゃったのは、社長じゃないですか」

 お願いです、と社長が着るスウェットの部屋着の裾を掴む。社長が眉を寄せた。

「では、夫婦らしく一緒に寝るか?」