抱きしめる腕はつかのま強張ったけれど、すぐさまさっきより強く抱えられた。それが嬉しくて、ますます頬をすり寄せる。
 ふわふわした気分。

 ところが社長の部屋の上がりかまちに下ろされ、ひんやりとした床に手をついたとたん――頭が冷えた。
 パンプスに手をかけられる。私はパニックに陥った。(めい)(てい)(かん)が一転して鈍痛に変わる。

「社長っ、自分で脱げますっ。社長、しゃ……っ!?」

 すらりとした指が、ストッキング越しに私のくるぶしへ触れる。そのとたん全身に微弱な電流が走った。
 ぞくり、というなんともいえない(うず)きに、私はとっさに社長の腕に手を突っ張る。
 だけど社長は私の力なんてものともせずに、パンプスを脱がせてしまった。

「これで楽になっただろう」

 別の場所が楽じゃない。主に心臓が。

「シャワーを浴びるか。それとももう寝るか?」
「シャワーをお借りできます……かっ?」

 目を丸くするまもなく、社長にふたたび横抱きにされる。
 混乱が過ぎて、もうなにがなんだかわからない。

「社長、歩けますって!」
「わかった」
「わかってくださったなら、降ろしてください!」
「シャワーはこっちだ」

 社長は私の訴えを聞き流して、まるでホテルのスイートルームのような廊下を進む。
 モダンなデザインが洗練されたドレッシングルームの扉を開けてようやく、私の足が床についた。社長が作りつけの棚からタオルと清潔な着替えを取りだす。

「バスルームは隣だ。服はコンシェルジュに言って適当に届けさせる。それまで悪いが俺の服を使ってくれ」

 展開についていけない。目を白黒させるうちに、パタンと扉が閉まる音がして私はドレッシングルームにひとり残された。


「どうしよう……」
 渡されたタオル類を抱きしめて床にへたりこむ。
 でも、ここでぼうっとして社長を待たせるわけにもいかず。
 私ははっとして、あたふたとバスルームに向かった。