自分が後悔しないための選択は何か。
わたしは、もういい加減踏み出さないといけないんじゃないか。
そんな思いがわたしの背中を後押しした。
「……本当に少しだけだからね」
不愛想なわたしの言葉に、薫は馬鹿みたいに目を輝かした。
薫を荷台に乗せたまま、海岸沿いを自転車で走る。
潮風が腫れた瞼に当たる。
この五年のうちにたくましくなった薫の腕がわたしの腰に回っている。
肌と肌が触れ合うほど近い距離にいるのに、お互いの心はもう繋ぎ止められないくらいに遠くなってしまった。
そのことを少し寂しく思いながらも、わたしは笑顔を浮かべた。
「やっふーーーー‼」
全速力でペダルを漕ぐ。
街灯が照らす静まり返った夜の街を、思いのままに走り抜ける。
「あはははっ。はなび、はっちゃけすぎ」
後ろで薫が楽しそうに笑った。
◇
いつの間にかこの街の人気スポットである小さなビーチまで来ていた。
自転車を止め、薫と目配せした。そしてどちらからともなく自転車を降りて、海に向かって駆け出した。
白いスニーカーを履いていたことなんかすっかり忘れて、砂浜を蹴る。
子供時代に戻ったみたいに、わたしと薫は砂浜を走る。気づいたら鬼ごっこが始まっていて、わたしは笑いながら薫から逃げた。