そのまま寝室の扉へと歩いていく。

 部屋から出る前にわたしは吐き捨てるように言った。


「もう帰って」

「……それ、本気で言ってる?」


 背後から低い声が聞こえる。わたしは息を整えて、頷いた。


「うん、本気だよ」


 涙は未だに流れている。薫に背を向けたまま、こっそりと最後の一滴を拭った。


 リビングへ行き、台所の上に置かれていたペットボトルの水をごくりと喉に流し込む。


 冷蔵庫にも入れていなかったのになぜかひんやりと冷たくて、酔いが回っていた頭を冷ましてくれるようだった。


「あ、それ俺の」


 寝室から出てきた薫がそう言った。
 わたしは思わずせき込みそうになり、慌ててペットボトルを口から離した。


「っは⁉ これ、薫がもう飲んだやつだったの⁉」

「うん、そうだけど」


 平然と答える薫に、わたしは目を剥いた。


「何、今さら間接キスしたこと気にしてんの?」


 薫がからかうように訊いてくるから、わたしは咳払いをして気持ちを落ち着けた。


「……そりゃあ、気にするよ。わたしたち、もう付き合ってないんだから」


 薫は一拍置いて、傷ついた表情で言った。


「ははっ、意外とはっきり言うんだな」


 わたしはそんな薫を一瞥し、構わずに自転車の鍵を持ち玄関へ向かった。


 ドアを開けようとしたタイミングで薫が駆け寄って来る足音がした。