「っ、うるさいー」


 声は情けなく震えている。

 薫が手を伸ばしてきたから反射的によけた。


 ……っ、どうしてあんたが傷ついた顔するのよ。
 そんな顔していいのはわたしだけなのに。


「はなび、俺、」

「いい。聞きたくない。あんたの言い訳なんて」


 私は薫を強く睨みつけた。薫は悔しそうに唇を噛む。


「っそれでも、俺、はなびに謝んなきゃいけないことがあって」


 その言葉を聞いた瞬間、わたしの心が強い拒否反応を起こした。


「やめて! もう何も言わないでっ!」


 聞きたくない、聞きたくない。

 その先に続く言葉を知っているから。


「はなび……」


 自然消滅して途切れたわたしたちの関係に、薫はきっと終止符を打ちに来たんだ。

 そうじゃなきゃ、今さら元カノの元になんか帰ってこないでしょ。


 乱暴に涙をぬぐって、ベッドから降りる。

 すぐに寝室から出ようとしたのに、強い力で薫の手に掴まれた。


「……薫、手離して」


 視線だけを薫に向ける。薫は深く俯いていて、今どんな顔をしているのかは分からない。


 わたしの手首を掴む手に力が入り、思わず眉をしかめた。

 ……痛い。全部全部痛くて、嫌になる。