◇


 ……あれ、わたし、何してたんだっけ。

 ぼーっとした頭で考えを巡らす。


 花火大会に行って、楽しそうに笑う周りのカップルに過去の傷をえぐられて、挙句呑んだくれて。

 そこまでは覚えているのに、その後の記憶が完全に消えている。


 眠っていたベッドから体を起こして辺りを見回すと、そこは私の部屋だった。


「はなび」


 聞こえないはずの声がすぐ近くで響いた。

 わたしの頭は真っ白になって、恐る恐る首を横に動かす。


「はなび、大丈夫?」


 ……っなんで。

 どうしてあんたが、ここにいるの。
 わたしの部屋に、……目の前に。


「……っかお、る?」


 目から一筋の涙がこぼれる。

 自分で制御なんてできなくて、次から次に溢れ出す。


「うん、そうだよ」


 薫は平然とした顔で頷いた。

 そんな薫を見て、どこからともなく怒りの感情が湧いてくる。


「ばか、馬鹿! 今まで何一つ連絡もしなかったくせに、どうして今になって……っ」


 わたしのベッドに腰かけた薫の胸をポカポカと殴る。
 涙でかすんだ視界の先で、薫が少し苦しそうに眉をしかめているのが分かる。


「……泣くなよ、はなび」


 だけどすぐに、薫は困ったような笑顔を浮かべた。