頬を流れる涙を拭おうと伸ばした手は、はなびに避けられて宙を切った。

 それだけのことにこんなにも胸が締め付けられる。


「はなび、俺、」

「いい。聞きたくない。あんたの言い訳なんて」


 どしんと背中にのしかかるはなびからの言葉。


「っそれでも、俺、はなびに謝んなきゃいけないことがあって」


 どれだけ拒否されたっていい。
 俺がはなびにしたことは、それ以上に酷いことだから。

 今さら後悔したって、もう遅いよな……。


 目の前には立派な社会人になったはなびがいる。
 昔と変わらず強くて、正直で。

 俺はもう、はなびに追いつくことはできないだろう。


 自分の弱さに勝てなかった俺は、もうはなびと一緒にいる資格なんてどこにもないのだろう。


 五年前の花火大会の日。

 俺がはなびとの待ち合わせ場所に来れなかった理由。


 それはあまりに情けなく、泣きたくなってくる。


「やめて! もう何も言わないでっ!」

「はなび……」


 縋るように彼女の名前を呼んでしまう。

 はなびがベッドから降りて、寝室から出て行こうとしたから思わずその手首を掴んだ。


 行って欲しくなかった。
 ただ、それだけ。


「……薫、手離して」