薫がわたしに視線を向ける。顔を薫の方に向け、ちらりと目を合わせると、その瞳は不安そうに揺れていた。


「あ、ううん。ひとりごと」


 わたしはごまかすように愛想笑いを浮かべた。

 貼り付けた笑顔の裏で、わたしは悟る。


 わたしたちはもう二度と、元には戻れないのだと。
 彼氏彼女という幸せな関係とは無縁で、程遠い場所まで来てしまっているのだと。


「……ねえ、はなび」

「ん?」


 薫がぽつりと呟く。

 そして、ズボンのポケットから何かを取り出した。


「最後にさ、一緒に線香花火しない?」


 それは、少し傷ついた、切ない笑顔だった。


 ◇


 線香花火はパチパチと燃え、火花が夜の風に吹かれては消えていく。


 ───まるでわたしたちみたい。


 最初は静かに、そして燃え盛り、細かな火花を飛ばしながらいのちの終わりを知らせ、最後はあっけなくぼとりと地面に落ちる。


 どれだけ仲が良くても、お互いを好きだという気持ちがあっても。

 人の心は移り変わり、色褪せていく。


 永遠なんてない。
 あると信じたいけれど、そんなものはどこにもないんだ。


 ビーチを背後に自転車を押し、薫と肩を並べて歩く。


 こんなことも今日で最後なんだと思うと少し寂しくなるけれど、もう覚悟はできている。