まるで付き合っていた頃に戻れたような感覚だった。

 だけどわたしは、夢のような時間もいつかは終わると知っている。


 中学三年の冬、わたしは生まれて初めて恋に落ちた。


 毎日サッカーに打ち込む姿を見て、素敵だなと思った。誰かが困っていたらすぐに手を差し伸べられるところに尊敬して、いつの間にか恋に落ちていた。


 クラスの人気者だった薫に勇気を出して告白した。


 まさかオッケーがもらえるなんて思っていなかったからあの頃は信じられない気持ちでいっぱいだったな。


 昔のことを思い出して、切なさで胸がいっぱいになる。


 お互い走り疲れて、砂浜に寝転がった。

 隣から薫の呼吸音が聞こえる。わたしはゆっくりと目を閉じた。


 薫と再会するまでは言いたいことやぶつけたいことが山のようにあった。それなのに、そんな怒りの炎が何の前触れもなく鎮火したように、今は何の感情も湧かない。


 ただ、心地いいという想いで満たされている。


「……もう、連絡を待つ必要がなくなったなあ」


 ふと思ったことを口にした時、その言葉がやけに腑に落ちた。


 それは諦めではなく、一歩進むためのもの。

 ようやく、長い間心に残り続けていた未練とお別れができそうだ。


「え……?」