ザーザーザー。


土砂降りの雨。


「うわぁ…最悪だ。」


生徒会終わり。会議を終えて窓の外を見ると、大粒の雨が降り注いでいた。


もう6月だから梅雨入りしたのだろう。天気予報では1日中晴れだと言っていたのに。大きくため息をつく。駅まで徒歩15分の距離。この雨の中走ったら、制服がびしょ濡れになるだろう。雨が止むまで時間を潰そうか。それとも止むかどうか分からないから走るしかないのか。頭の中でぐるぐると考え事をした。



「柏木(かしわぎ)?」


名前を呼ばれて振り返ると、雨野(あまの)先輩が立っていた。


「雨野…先輩……」


雨野先輩は、私の1つ年上の中学3年生で、生徒会に所属している。さっきまで同じ会議に参加していた。


「雨、すごい降ってきたね」


「そうですね…」



こんな風に雨野先輩と話すのは初めてだ……。2年生と3年生。学年が違うだけで、とても大人っぽく感じられた。手が届かないような、そんな存在。


端正な顔立ちに、スラッとした高身長。眼鏡の奥の綺麗な瞳がクールでかっこいい。誰も寄せ付けないような雰囲気。それが雨野先輩のイメージだった。……そう、今日までは。



「はい、これ使って。」


「えっ……?」


そう言って差し出されたのは、ビニール傘。


「傘ないんでしょ。それ、柏木にあげる。」


……気づいてくれてたんだ。


「でも、先輩が……っ」


「平気。僕、雨の中走るの結構好きなんだ」


そう言って子供みたいに無邪気に笑った雨野先輩の笑顔に、私は一瞬で恋に落ちた。


大雨の中を駆け出していく、全速力で。目に見える光景がスローモーションのように私の瞳に映った。眩しかった。


ぎゅっと握りしめた傘は、汗ばんだ手の温度で温かかった。



これが先輩と会う最後の日になるなんて、この時は思いもしなかった。




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先輩が転校したことを知ったのは、次の週の生徒会の会議の日だった。


家族の転勤でやむを得ずの転校だったそう。もう学校に先輩の姿はなかった。



あの日、先輩は私に傘を「貸してあげる」ではなく「あげる」と言った。今になって、その言葉の意味がわかった。




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あれから、月日が過ぎ、私は高校2年生になった。


高校生になった今でも、時々思い出す。梅雨の時期になると……特に。先輩から貰ったビニール傘は今も大切に持っている。


雨野先輩はもうどこにもいないのに。それでも先輩との想い出は確かに私の心の中にあった。あの日の出来事は今でも鮮明に覚えている。



学校帰りに駅で電車を待っていると、突然の雨が降り出した。



「梅雨入りかなぁ…」


ぼそっと呟いたそのとき、誰かが傘に入れてくれた。


見上げると、なんとそこには、ビニール傘を持った雨野先輩が立っていた。



梅雨が運んでくれた恋が再び始まる予感がした。



end.