「加奈ちゃん!どうして……」
 私が廉君の病室に現れた時の廉君の第一声がこれだった。元々大きい目を真ん丸に開けて私の事を凝視している。それはそうだろう。事前に連絡もしないで来ちゃったし、そもそも私達は同じクラスだけどあまり接点は無かったんだから。
 でも二年生の時、まだ蒼太君が転校してくる前まではそれなりに親しくしていた。廉君は男子の中でも話しやすかったし誰にでも平等に優しかったから。蒼太君が転校してきて私が一目惚れしてからは、廉君は蒼太君を巡るライバルとして勝手に敵視していただけだけどね。

「ごめんね、急に来て。体調はどう?」
 椅子に座りながら言うと、廉君は戸惑いながらも笑顔を見せた。
「うん、大丈夫やで。心配して来てくれたん?」
「ん~……、まぁね。」
 自分でもどうしてここに来たのかわからないから曖昧に返事をする。すると廉君の眉間に皺が寄った。

「何か、あったん?」
「何かっていうか……」
「言うてみてや。何か悩みがあるなら聞くよ。」
「うん……」
 廉君の真剣な眼差しに負けるようにして、私は今日の事を全て話した。すると廉君は急に真っ赤な顔になると怒り出した。

「蒼太の奴……!何、加奈ちゃん傷つけてんねん!」
「れ、廉君?」
「ごめんなぁ?あいつ、無神経なとこあるから。悪気はないねんけど……まぁ、それが一番質悪いか。ほんま、ごめん。」
 深々と頭を下げられてこっちが申し訳なくなる。私は慌てて両手を横に振った。

「別に廉君が謝る事じゃ……」
「いや、ほんまごめんな。」
 その言葉の響きには蒼太君の代わりに謝る以上の含みを感じて、何となく廉君の思っている事がわかった。

「間違ってたらごめんね。もしかして廉君って私の事……」
 遠慮がちに言うとパッと顔を上げる廉君。その顔は赤かったけどさっきとは意味が違うのが見てわかった。釣られて私まで赤くなってしまう。
「やっぱ加奈ちゃんには隠し事はでけへんな。」
 自嘲気味に笑う廉君が痛々しい。この数日で痩せた頬に影が差すのを、私はぼんやり見ていた。

.