あれから三日、蒼太君は学校にはくるものの授業中も休み時間中もボーっと宙を見て過ごしていて、明らかに元気がない様子だった。担任の先生は私達には廉君の病気については詳しく話してくれなかったけど、他でもない病院に連れて行った蒼太君は事情は少なからず知っているだろう。廉君本人に聞いたか主治医の先生に聞いたか、それとも廉君の家族に聞いたか。どんな具合かわからないけど今の蒼太君の様子だと軽いものではなさそうだ。
 私は廉君には悪いと思ったけど、一人でいる蒼太君を見てこれはチャンスだと思った。友達が病気で落ち込んでいる隙につけこむのは本当は嫌だった。でもここで決心しないと後で後悔するかも知れない。そう思うと体が勝手に動いた。

「蒼太くん?……蒼太君!」
「……え?あ、何?」
「どうしたの?元気ないじゃない。やっぱり……廉君の事心配?」
「いや別に……気にせんといて。」
「そう?ならいいけど。」
「で、何?何か用?」
「あたしも別に……」
「そう。ならええけど。」
「じゃね。」
「あぁ。」
 蒼太君はぶっきらぼうに言うと、さっきと同じように机に突っ伏す。そして『話しかけるな』オーラを放った。

(私のバカ!廉君の事心配なのは当たり前じゃない……しかも特に何も進展しないまま会話終わっちゃったし……)
 肩を落として自分の机に戻ると、取り巻きの女の子達がすかさず寄ってきた。

「どうしたの?加奈子。蒼太君に何か用事だったの?」
「別に……」
「でもさ、この教室も随分静かになったね。」
「廉君がいないからね。」
「でも蒼太君可哀想。あれから三日、ずっとあんな感じだよ。」
「心配だよね……」
 口々に言っているが、誰も廉君の心配はしないんだなと思う。このクラスの中で霧島廉という人の立ち位置みたいなものが見えた気がした。

「あ!蒼太君、出て行っちゃった……」
 一人の子がそう言うから慌てて振り返ると、そこには空になった机しかなくて廊下にも影一つない。私は窓の外を向きながら溜め息を吐いた。

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