「皆木さん、これ」


「え?」



その日の放課後を迎えて散らばってゆくクラスメイトたちのなか、おなじ吹奏楽部の坂田(さかた)さんがプリントを渡してきた。


彼女はフルートを担当していて、春の大会では先輩を差し置いてソロ演奏を任されるなど、つぎの部長になるんじゃないかとウワサされている生徒だ。



「来月の3年生を送る会で演奏するメドレーの楽譜ね。皆木さんはどうかなとは、思ったんだけど」


「あっ、い、一応……貰っておきます。ありがとう!」


「…うん」



7月から始まるコンクールの地区予選。


それは秋にある全日本高等学校吹奏楽大会に繋がる、3年生の最後の正念場だ。


春にも選抜大会があり、そこで鈴高はまさかの銀賞に倒れた。

だからこそ顧問の先生も秋こそはと、気合いが本物だった。



「皆木さん、あまり……先輩たちを困らせないでもらえるかな」



楽譜を確認しながらあとで音階を振ろうと思っていると、坂田さんは空気感を変えて言ってくる。