学校が夏休みに入ってからは特になにもなく、だらだらと毎日を過ごした。


 月曜日と水曜日だけは、夕方涼しくなってから悠さんと会うために桜舞公園にいった。


 それでも時間は有り余っているし、だからと言ってこれ以上勉強する気にもならない。なのでベッドに転がってスマホでSNSを開く。


 するとSNSのおすすめ紹介欄に泣ける恋愛小説三選というショート動画が出てきた。


 こんな恋愛にうとい私だけど、顔も可愛くもないけど、いつかは私のことを好きと言って大切にしてくれる、素敵な人と出会って本物の恋愛をしてみたい、そう夢見てしまう。


 恋愛小説はそんな私にいつも元気をくれる。つらい現実など忘れて小説の世界で心が踊るような恋愛を体験したい。


 そのショート動画の中に気になった恋愛小説を見つけたので、私は近くの本屋に足を運んだ。


 本屋に入ってから恋愛小説が置いてある棚の、近くの児童書コーナーで真剣な表情をしている昭彦さんを見つけた。そのとなりにはベージュカラーのショートヘアがよく似合うおっとりした雰囲気の女性がいる。


 「あら、朝陽ちゃんじゃん」とすぐ昭彦さんが気づいて、公園で会ったときと同じ笑顔で私に手を振った。


 「どうもです」と私も会釈をする、ふたりの近くにいくと子どもの絵本ではなく、出産についての本の前にいたのだとわかる。


 「君が晴に似てるって悠君が言ってた子ね。私、となりのこいつの嫁の八満明里です、よろしくね〜」


 こいつ、という親しみを込めた呼び方から、ふたりの仲の良さや長年の関係であることが伝わってくる。


 晴に似てるという言葉に疑問を感じたが、それよりも私は昭彦さんが持っていた本に目がいってしまう。


 本のタイトルには『不妊治療』と書いてある。高校生の私には出産なんて遥か先のことで、相手がいるかも経験するかもわからない、未知で想像もつかないことだけど、不妊という言葉くらいは聞いたことがある、赤ちゃんが授かりづらいということだ。


 「あぁ、この本?うち不妊みたいでさ、今度ふたりで病院にいくことにしたんだ。その前に自分たちでも勉強しようと思ってね」と、昭彦さんが教えてくれた。


 しまった。私が本を凝視してしまったせいで、言いたくないことだったかもしれないのに説明させてしまった。さっきの昭彦さんの真剣な表情…。夫婦にとってただ事ではないはずだ。


 「そうなんですか」と心配そうな顔をして言ってはみたものの、やっぱり私には想像がつくようなことではない。


 そのあと目当ての恋愛小説を買ってから家に帰って、小説を読む前に気になったので不妊についてスマホで検索した。


 すると『終わりの見えないトンネル』『パートナーとの不仲』『うつ病になった』と出てきた。


 私には想像でしかなけど不妊というものが、夫婦に与えるつらさが重大なものなのだと検索内容から伝わってくる。


 児童書コーナーには子どもの絵本や出産について、赤ちゃんができたらという明るい内容の本も置いてあって、不妊治療の本もそこに置いてあった。


 昭彦さんと明里さんは、どんな気持ちでそこで不妊治療の本を探して手にとったのだろう、そう考えてしまって勝手だけど、私は少し涙が出た。