ウィリアムから購入の許可をもらえたアメリアは、注文表と睨めっこをしていた。
費用については心配しなくてもよい、と言われても遠慮はある。ただ、そろそろ本棚や書いたものたちをしまうための棚も欲しい。
自由に注文をしても良いと言われて数日が経過したが、アメリアはまだインクと紙しか注文しておらず、大きな買い物はしていない。
(でも、いい加減に買わないと)
アメリアは積み上がった小説本と、書き上げた物語の紙の束を見た。どちらも量が多いことから安定感はなく、少しでもバランスを崩せば倒れるだろう。
アメリアが購入を躊躇する理由は、もう一つあった。ウィリアムへの遠慮はもちろんのこと、彼女は大きな買い物に抵抗があった。伯爵生まれであるアメリアは身につけるものは高級なものであったものの、彼女は買い物をした経験がほとんどなかった。ドレスは必要最低限の数で、全て彼女の母親が購入していたため値札を見たことがない。
さらに、アメリアはお金を受け取ったことがない。金貨や紙幣にどれほどの価値があるかは一般常識として知ってはいても、食べ物にどれくらいのお金がかかるのか、ドレスやアクセサリーにどれほどのお金がかかるのかを彼女は知らないまま育ってしまった。なのに、そんなにお金を使ってこなかった中でも彼女は両親から「お金のかかる娘」と蔑まれ、ドレスやアクセサリー、そのほかの物に関しても所有している数は必要最低限であった。物欲が完全になかったわけではないが、新しいものが欲しいと伝えればまた嫌味を言われてしまう。そう考えるうちに、何かを強く言われるくらいなら何も言わない方が良いと思い、物を欲しいとねだることもなかった。
そのような経験しかない彼女からすれば、お金をかけることは罪であると考えてしまうだろう。本や紙は伯爵家にも多くあったため、彼女が自由に使えた数少ない物のうちの一つだった。だからアメリアも、ウィリアムに躊躇なくお願いができたものの、本棚といった家具などを買ったことが人生で一度もなかった。大きなものならきっと高価なものだとアメリアは考えているのだ。
(旦那様にお願いをするのも、気が引けるわね……)
十分なほどの部屋に、すでに紙やインク、小説本なども買ってもらっている。
これ以上お願いするのは嫁いだ人間としてお願いがしにくい。
「奥様、どうかなさいました?」
悩みの表情を浮かべていたことで心配をしたのか、リリーはおずおずと聞いてきた。
「……迷っているの」
「迷っている、ですか?」
「ええ。この買い物をしても良いのかどうか」
リリーは思わず驚いた。今や公爵夫人ともあろう方が、元は伯爵令嬢であったアメリアが買い物に悩む必要があるのか、と驚いたのだった。
いったいどれだけ高い買い物をしようとしているのかが気になったリリーは彼女に「何を買うことに悩んでいるのですか?」と聞いた。新しいドレスでも欲しいのか、それとも豪華な宝石がついたアクセサリーが欲しいのか、その辺りだとリリーは考えた。
「本棚と、話を書いた紙を保存するための箱や棚が欲しいと思っているのだけど旦那様に迷惑よね」
アメリアは小さくため息を吐いたが、リリーは呆気に取られていた。自分が仕えている奥様が、本棚を一つ買うのに躊躇をしているだなんて想像すらしなかった。
確かに家具というのは高い買い物になり、平民たちは簡単に買うことはできないだろう。だが、貴族であれば別だ。
貴族であれば流行り物を常に追いかけて、それを身につけたり購入するのが当たり前だ。中には流行しそうなものに投資をする貴族だっている。ウィリアムも流行を抑え、それで商売をしたり契約をすることだってある。
流行を追いかけない貴族などほとんどおらず、むしろ流行に置いていかれていると知られれば社交界では笑いものになってしまう。流行りの高級ドレスを仕立てるより、本棚を何個か買う方が費用は安く済むだろう。
「奥様、旦那様は本棚などで怒るような方ではありませんよ」
「でも、きっと高い買い物になるでしょう? いくら使ってもいいって言われても、ちょっと……」
もはやリリーはどんな言葉をかけて良いのかがわからなかった。
アメリアが本当に貴族なのかすら疑わしいほどの金銭感覚である。
「……では、本日の夕食の際に聞いてみてはいかがでしょうか?」
「でも、使いすぎだと言われないかしら」
「奥様、旦那様は公爵家の主人ですよ。そんなことで反対をする方ではありません」
リリーはピシャリと言った。そんなこと、と言うがアメリアにとっては勇気のいるものだ。
「それに、このままだと倒れます」
アメリアとリリーは、同時に積み上がった本と紙の束を見た。今でもぐらついており、いつ崩れてもおかしくない。
「……わかったわ」
アメリアは気が進まないと思いながらも、また新たな紙を注文するために注文書に記入をした。
費用については心配しなくてもよい、と言われても遠慮はある。ただ、そろそろ本棚や書いたものたちをしまうための棚も欲しい。
自由に注文をしても良いと言われて数日が経過したが、アメリアはまだインクと紙しか注文しておらず、大きな買い物はしていない。
(でも、いい加減に買わないと)
アメリアは積み上がった小説本と、書き上げた物語の紙の束を見た。どちらも量が多いことから安定感はなく、少しでもバランスを崩せば倒れるだろう。
アメリアが購入を躊躇する理由は、もう一つあった。ウィリアムへの遠慮はもちろんのこと、彼女は大きな買い物に抵抗があった。伯爵生まれであるアメリアは身につけるものは高級なものであったものの、彼女は買い物をした経験がほとんどなかった。ドレスは必要最低限の数で、全て彼女の母親が購入していたため値札を見たことがない。
さらに、アメリアはお金を受け取ったことがない。金貨や紙幣にどれほどの価値があるかは一般常識として知ってはいても、食べ物にどれくらいのお金がかかるのか、ドレスやアクセサリーにどれほどのお金がかかるのかを彼女は知らないまま育ってしまった。なのに、そんなにお金を使ってこなかった中でも彼女は両親から「お金のかかる娘」と蔑まれ、ドレスやアクセサリー、そのほかの物に関しても所有している数は必要最低限であった。物欲が完全になかったわけではないが、新しいものが欲しいと伝えればまた嫌味を言われてしまう。そう考えるうちに、何かを強く言われるくらいなら何も言わない方が良いと思い、物を欲しいとねだることもなかった。
そのような経験しかない彼女からすれば、お金をかけることは罪であると考えてしまうだろう。本や紙は伯爵家にも多くあったため、彼女が自由に使えた数少ない物のうちの一つだった。だからアメリアも、ウィリアムに躊躇なくお願いができたものの、本棚といった家具などを買ったことが人生で一度もなかった。大きなものならきっと高価なものだとアメリアは考えているのだ。
(旦那様にお願いをするのも、気が引けるわね……)
十分なほどの部屋に、すでに紙やインク、小説本なども買ってもらっている。
これ以上お願いするのは嫁いだ人間としてお願いがしにくい。
「奥様、どうかなさいました?」
悩みの表情を浮かべていたことで心配をしたのか、リリーはおずおずと聞いてきた。
「……迷っているの」
「迷っている、ですか?」
「ええ。この買い物をしても良いのかどうか」
リリーは思わず驚いた。今や公爵夫人ともあろう方が、元は伯爵令嬢であったアメリアが買い物に悩む必要があるのか、と驚いたのだった。
いったいどれだけ高い買い物をしようとしているのかが気になったリリーは彼女に「何を買うことに悩んでいるのですか?」と聞いた。新しいドレスでも欲しいのか、それとも豪華な宝石がついたアクセサリーが欲しいのか、その辺りだとリリーは考えた。
「本棚と、話を書いた紙を保存するための箱や棚が欲しいと思っているのだけど旦那様に迷惑よね」
アメリアは小さくため息を吐いたが、リリーは呆気に取られていた。自分が仕えている奥様が、本棚を一つ買うのに躊躇をしているだなんて想像すらしなかった。
確かに家具というのは高い買い物になり、平民たちは簡単に買うことはできないだろう。だが、貴族であれば別だ。
貴族であれば流行り物を常に追いかけて、それを身につけたり購入するのが当たり前だ。中には流行しそうなものに投資をする貴族だっている。ウィリアムも流行を抑え、それで商売をしたり契約をすることだってある。
流行を追いかけない貴族などほとんどおらず、むしろ流行に置いていかれていると知られれば社交界では笑いものになってしまう。流行りの高級ドレスを仕立てるより、本棚を何個か買う方が費用は安く済むだろう。
「奥様、旦那様は本棚などで怒るような方ではありませんよ」
「でも、きっと高い買い物になるでしょう? いくら使ってもいいって言われても、ちょっと……」
もはやリリーはどんな言葉をかけて良いのかがわからなかった。
アメリアが本当に貴族なのかすら疑わしいほどの金銭感覚である。
「……では、本日の夕食の際に聞いてみてはいかがでしょうか?」
「でも、使いすぎだと言われないかしら」
「奥様、旦那様は公爵家の主人ですよ。そんなことで反対をする方ではありません」
リリーはピシャリと言った。そんなこと、と言うがアメリアにとっては勇気のいるものだ。
「それに、このままだと倒れます」
アメリアとリリーは、同時に積み上がった本と紙の束を見た。今でもぐらついており、いつ崩れてもおかしくない。
「……わかったわ」
アメリアは気が進まないと思いながらも、また新たな紙を注文するために注文書に記入をした。