「じゃあ家は俺が案内するね」
家について手を洗ったとたん、話しかけてきたのは鈴蘭(すずらん)さんだった。
「・・・お願いします・・・?」
鈴蘭さんがやりたいと言ったとは思えない。
だって鈴蘭さん・・・そんなに人と急接近するタイプの人じゃないと思うから。
しっかり見極めて・・・いい人だと思ったら仲良くなる。
そんな感じがしたんだけど・・・私たち、会ったの初めてだよね?
それが顔に出ていたのか、鈴蘭さんは苦笑した。
「あはは、分かっちゃう?やっぱり顔だけ見る女とは違うね、雫宮(しずく)は」
顔だけ見る女、か。
まぁ、私は人の顔に興味ないし。
「・・・鈴蘭さんは、人を信じることができますか?」
「やだなぁ、鈴蘭さんなんて。鈴蘭でいいよ?あ、鈴兄(すずにい)のほうがいい?」
「・・・そう呼んだら、答えてくれますか?」
「そうだね。呼んでくれたら答えよう」
ニコニコと面白そうにこっちを見る鈴蘭さんを一瞥して、私はそっと口を開いた。
「・・・鈴兄、教えてください」
「あ、敬語も取ってね?兄妹でしょ?」
「義理ですが」
「まぁまぁ、いいじゃん?答えないよ?」
ココで私は面倒くさくなって「じゃあいい」とその場を離れるだろう。
でも・・・この人のコト、気になる。
知りたい、この人の考えていることが。
「・・・・・・・・・鈴兄、教えて」
「ふふっ、いいよ。俺は・・・人なんて、信じないよ。兄弟と雫宮は別でね」
やっぱり信じないか・・・。
「家族は、信じられる?」
「・・・正直、兄弟しか信じられないな。父は信じるって程一緒に過ごしていないし、母は・・・俺たちを、裏切ったから」
どこか悲しそうに呟いた鈴兄に納得した。
なるほど・・・家族でも信じられる人と信じられない人がいるのか。
私と同じだ・・・。
私も心のどこかで、義母と義姉を信じていた。
義母と義姉は私を裏切らなかったし、むしろ良くしてくれた。
すべては父だ。
父がいい人だったら・・・私はあの家を離れなかったのに。
「じゃあ案内を始めようか」
最初に連れてこられたのは私の部屋らしい。
「荷物はそこらへんに置いておいて。えっと、ココがリビング、みたいな?ソファとかテレビとかある部屋ね。右奥のこっちは・・・はい、寝室ね。左奥は・・・あ、勉強部屋だね。机と椅子とか、あと参考書も一通りあるよ」
勉強部屋の本棚には、赤本がびっしり。
わ・・・重そう。
「1つの部屋に詳しい案内は必要ないかな?じゃあ次はこっちね」
荷物を置いてすぐ、鈴兄は私の手を引いて部屋をでる。
「こっちはねぇ・・・」
「あ、ここは・・・」
「お風呂はね」
家を一周してようやく、案内が終わったみたい。
「・・・ありがとう」
ココは素直にとお礼を言い、私は逃げるように全員が集合しているであろうリビングに行った。