背中に視線を感じ、後ろを振り返ると。
「・・・誰だい?」
皐月兄弟の父らしき人が代表して訊いてきた。
「・・・仲間です」
「仲間か・・・仲が良さそうだったし、なぁ、葦零?」
「父さん・・・煽ってる?」
父(?)に話を振られ、葦零さんは不満げに口を尖らせる。
「でもちゃんと躾けるよ」
「・・・どんなふうに?」
恐る恐ると言った感じで訊いた伊毬さんに葦零さんは微笑んだ。
「そうだなぁ・・・まず僕の言うことに抵抗しないように、かな。あとは他の男を見ないよにってのと・・・義兄だからって2人きりにならないようにさせるよ。僕が鎖につないで一生同じ部屋で暮らすのもいいね」
「・・・ぶっ飛んでるねぇ・・・」
鈴蘭さんが呆れたように言ったところを見れば、葦零さんは昔からこんな感じらしい。
・・・興味ないけど。
「ねぇ・・・車、邪魔になってる。家、帰る」
朔冴さんが話に入ってきて、早くしろと言わんばかりに車を指差した。
「あぁ、そうだね。じゃあ車に乗って」
私は皐月兄弟父(?)に言われた通りに座席の一番端に座った。
興味がないとはいえ、最低限の礼儀は知っている。
「遠慮してるの?可愛い義妹(いもーと)ちゃん」
葦零さんがシートベルトを引っ張って私の頬に指をあてる。
ふにふにと頬を押してくる葦零さんに対し、私はさり気なく横を向いて指を外した。
「そっけないなぁ・・・ま、それを躾けるのが僕の生きがいになりそうだね」
また言ってる・・・っていうか、涙悪、『姫様に躾を──』みたいに言っていたけど。
結局犯人を突き止める(?)と殺夜と喧嘩を始めようとして私に殴られ、見回り再開してたよね・・・。
「躾けるって何をするんですか?」
尋ねてみると葦零さんはニッコリ。
「僕でいっぱいになって貰うんだよ~」
「いっぱい・・・?」
それは・・・・四六時中付きまとわれる、というコトだろうか。
「その為には雫宮には恥ずかしいコトを沢山してもらわなきゃな~」
恥ずかしいコト・・・?
みんなの前で演劇でもやるんだろうか。
葦零さんは演劇派?
・・・どんな夢だろうと、私は応援はする気ないけど。
だって人から応援されて成功することなんて無いに等しい。
結局は努力と才能なんだから。
努力しても才能がなければ駄目。
才能があっても努力をしなければ駄目。
そう、信じているから、私は。
「・・・あまり気にしないでください。首を突っ込みすぎると痛い目遭いますよ」
・・・主にあの2人が。
と言わずに無表情で警告しておくと、鈴蘭さんが首を傾げた。
「そういえばあの人たちは何年?同じ学園にはいないよね、あんな顔が整った人がいたら有名だろうし」
「年齢不詳です。なので同じ学園にはいません」
「AIみたいな受け答え・・・すごいというかなんというか・・・」
苦笑を零した伊毬さんが視界の端に入り、私は窓から外を見つめながら考える。
私は言われたことしかしない、いや、したくない。
空気は読めるし、気は利く方だけど・・・読まないし、利かせない。
面倒くさい、っていうのが理由だけど。
そもそも人とかかわるのは好きじゃ無いし。
私とのかかわりを求める人なんていないだろうし。
なんで皐月家は私を養子にしようとしたのか。
目的は?なんのために?
絶対権力者の人のある程度の命令なら聞くけど、一般人の命令とかは聞かない。
・・・家事ができるから?
使用人みたいなことをやらせようとしているんだろうか。
皐月家の下僕が私で、私の下僕が涙悪か・・・なんて関係図なんだ。
私なんて放っておいてくれれば1人で死ぬのに。
勝手に滅して灰となり、誰にも気づかれずに汚いこの世を去るのに。