殺夜(さつや)涙悪(るあく)。見回り?」
この2人は・・・まぁ、私が深夜にしているコトの仲間・・・?
「そーやで!姫はなにしてるん?」
「ちょっと・・・養子縁組組(ようしえんぐみく)んだから 引っ越し?みたいな」
私は街一番の暴走族・ヴィラーナの姫。
殺夜は関西弁な兄貴系総長で、涙悪は・・・私を異様なほどに崇める執事のような。
涙悪の口癖は『私は姫様至上主義(ひめさましじょうしゅぎ)なのです!』だから。  
「・・・それで?私の姫様に躾をするなどとほざいた(やから)はどこの誰です?身の程を(わきま)えていただきましょうか」  
「ん~?僕だよ~メガネさん」
「貴方ですか・・・弱そうですね。本当に弱そうだ」
「涙悪、何故『弱そう』を強調する。2回言う」
思わず突っ込むと、涙悪は私を見て微笑んだ。
まるで、先刻(さっき)のとは正反対な顔で。
「姫様、知らないやつとの縁組なんて捨ててしまいましょう。私が姫様を貰いますよ」
あぁ・・・執事チックなキャラが出てきた。
今、壁からヒョコっと顔をのぞかせたよ、ヒョコっと。
「まぁ、一旦落ち着き?でも我慢ならんなぁ・・・姫になにやろーとしてたん?躾とか必要ないで?なぁ?姫」
「ん?あぁ・・・うん」
あいまいに頷くと、殺夜は満足げに頷く。
「今日からも来れるん?無理にとは言わんがなぁ・・・」
「来てほしいオーラがすごいですよ、殺夜。断れない雰囲気を作るのはやめてくれませんか。姫様を困らせたら容赦しませんよ」
なにを話しているんだこの2人は・・・。
暇なのか?暇なんだな?暇なんだよな?
でもこの2人が正真正銘、私の『大切な人』だ。
私が唯一笑える人たち。
私が感情を持てる人たち。
私の心を見てくれる人たち。
私の、宝人。                                                                               
宝物、ならぬ、ね。
読み方?ほうじん?ほうびと?たから・・・じん?たからびと?
たからびとが一番いいかな。
「あの・・・どちらさまで?」
伊毬さんが困惑したように声を掛け、他の人たちも頷く。
「ん~?それは言えんわ。姫との約束やもんな?」
「うん。守ってよ?」
部外者に背を向け、私は2人にだけ笑みを浮かべる。
「分かっていますよ、姫様。姫様の約束を破るものには容赦しません、でいいですね?」
「ありがと。じゃあ今日も行くからね?」
「無理しないで下さいよ?貴女が怒られたら私は胸が痛いです」
うっと呻き、自分の胸を押さえた涙悪の頭を殺夜が叩いた。
「なに俳優みたいなセリフ言っとんねん。それかなんかの歌詞か?」
「叩きましたね?ではここで一戦・・・」
「はい、ストップね。仲が良いのは大変宜しいですが、喧嘩に発展するようなら──」
わざと先生のような口調で止めると、涙悪が大声を出した。
「貴女様のお言葉を遮ること、お許しください!ですが私たちは全く仲が良くないです!」
・・・え?                                                                              
いつも私を見つけて走って寄ってくるときは、とても距離が近いじゃないか。
アレ、ゼロ距離だよ?                                                       
仲良く肩をぶつけ合って・・・あれ?
ぶつけ合う・・・のは仲が良い証拠だよね、ウン。                                               
「置いてくの酷くな~い?ってか雫宮笑ってた?笑ってたよね?!」
「見られてたんか・・・ま、こんな奴らに見られるようなコト、二度とないでな。しっかり目に焼き付けとき」
「言われなくても!」                                                        
面白そうに笑った殺夜に葦零さんが大きく頷いて私の顔を覗き込む。
「あれ~・・・もう笑ってな~い・・・」
残念そうに離れていった葦零さんに呆れながら私は殺夜と涙悪に声をかけた。
「見回り再開ね。私、もう行くからまたあとで」
「お~、名残惜しいんやけどな~・・・ま、我慢するわ」
「どーも」                                                             
悲しそうに目を伏せた殺夜に『キャラじゃないよね、儚い感じの・・・』と勝手な感想を抱く。
「私も離れたくないですね。先程我慢して別れたのですが、もう一度会ってしまうと離れがたいですね・・・」
「・・・麻薬みたいに言わないでくれる?」
あの『もうやめられない、()められない※イメージ※』みたいな。
「・・・ずいぶんと仲が良いみたいだな?」
ずっと黙っていた皇逢さんが不意に口を開き、殺夜は笑顔で頷いた。
「俺ら仲良しなんや!」                                                        
「俺ら・・・?3人ですか?」
「なにキモいコト言っとんねん!俺と姫やわ!」
「でしたら姫様と私のほうが仲良しですね」
自信満々に言った涙悪に殺夜が驚いている。
「涙悪・・・お前、いつから『仲良し』になったん?前まで『私は姫様の下僕です!いつか踏みつけてもらうのです!!』とか豪語してたやろ」                                                                   
「おや、殺夜、貴方は『豪語』を覚えたのですね。少しずつ成長してますね」
「バカな子供を見守る親みたいに言わんといてくれへん?!恥ずかしいわ!」
また喧嘩を始めそうな雰囲気の2人にため息をついて私は。
「ぉぐっ?!」                                                                    
「あぁ、これこそ我が喜び・・・」
呻き声を上げた殺夜と変態発言をした涙悪。
「・・・え?今・・・雫宮、殴って・・・」
「・・・躾です」                                                              
私は鈴蘭さんに素っ気なく返し、2人を見下ろした。
「見回り?」                                                           
「「再開っ!」」
少し圧を掛けると、2人はいい返事をして立ち上がり、走っていった。
涙悪は、                                                                  
「殴ってくれてありがとうございます。今度は踏んでください」
という言葉を忘れずに。
はぁ・・・。