「鈴蘭が罪悪感感じるコトないよ」
葦零の静かな声で現実に引き戻される。
「僕は、やりたくてやっている。鈴蘭が思ってるのと同じ。それは、事実」
葦零にはわかってたんだ。
ずっと、俺が自分自身に暗示をかけて生きてきたって。
「鈴蘭は優しいね」
・・・どこが。
俺は・・・優しくない。
弟にすべてを放り投げて、自分勝手に生きていた俺が・・・優しい?
「僕はそんなコト思ってないよ」
葦零は、すべてわかっている。
誰がどう思っているのか、全部察して・・・それで、一番欲しい言葉をかけてくれる。
「俺、全然駄目じゃん・・・」
なにが女子に人気の爽やか王子だよ。
そんな肩書きどうでもいい。
俺が優先すべきは、生まれてからずっと無理をしてきた葦零だったのに。
「鈴蘭はずっと僕のコト気にかけてくれてたよ」
・・・どこが。
気にかけてなんてない。
俺こそ・・・自分の罪悪感を減らすため、自己満足てやっていただけのコト。
                                                                  
『俺もやるよ』
                                                               
その一言があれば、俺はこんなに後悔せずに済んだんだろうか。
「鈴蘭はさ、雫宮が可愛くて仕方ないんだよね」
それは、そうだ。
でも、いくら雫宮が可愛いからって・・・。
                                                                 
葦零を、蔑ろにする理由にはならない。
                                                                  
「僕、嬉しかったよ」
・・・なにが。
血の繋がった自分よりも、大切にされる義妹が現れて?
「鈴蘭が、大事にするものが出来た。ずっと鈴蘭は独りのまま生きていくのかなってずっと心配してたんだから」
ほっとしたような口調に、ハッとする。
・・・俺は、どれだけ間違いを犯せば気が済むんだろう。
弟にすべてバレていて、その挙句心配させるなんて。
兄失格だなぁ、俺。
本来なら葦零に甘えられる立場のはずの俺が、葦零に甘えていた。
「鈴蘭はこれからもずっと、雫宮を大事にしてほしい」
ただし、と葦零が笑う。
「僕も、気持ちは伝えさせてもらうよ」
・・・望むところだ。
「ずっと自分勝手に生きていた俺が相手でいい?」
「もちろん。それに、相手は鈴蘭だけじゃないよ」
意味深に笑った葦零に納得する。
伊毬も皇逢も朔冴も・・・みんなライバル。
兄弟で、こんな風に争う日が来るなんてなぁ・・・。
でも、雫宮は渡さない。
俺の、可愛い唯一。
兄としてじゃなくて、絶対に男として見てもらえるようになる。
「鈴蘭」
葦零の落ち着いた声が心地いい。
俺は、ずっと前から葦零のこの声が好きだった。
中性的な顔立ちなコトもあって、声は高いほうで。
今は亡き母さんの声と似ていたから・・・この声を聴くと安心できた。
「約束して」
葦零との約束。
表向きのキャラで言われたら得体が知れなくて怖いけど・・・。
「うん」
ホントのキャラだったら、兄として、せめて願いを叶えたい。
「これからもずっと・・・」
ふわり、と葦零は微笑む。
逝く前の母さんが重なって、泣きそうになる。
柔らかい笑顔は崩れない。
本心から言っているような笑顔で、葦零はそっと唇を開いた。
                                                                      
「・・・笑っててね」
                                                                 
もちろんだ。
葦零の願いだったら、ずっと笑っている。
笑みを絶やさないわけではない。
悲しい時は泣くし、悔しい時も泣く。
怒るし、人形のようにずっと笑っている気はない。
笑いたいときは、感情に合わせて笑えばいいだけのコト。
                                                                 
「私も、同意」