背中のベッド。                                                             
顔の横に腕。                                                               
目の前に顔。                                                            
「・・・雫宮」                                                      
熱を帯びた瞳。                                                        
風邪・・・ではなさそう。
「雫宮に触れられてからずっと我慢してたんだけどな・・・」
そう言った鈴兄は1人で苦笑する。
私に触れられてから・・・?
戦った人のコト?                                                         
「もう無理だわ」                                                         
自嘲するように前髪をかき上げたあと、鈴兄の顔が近づいてきた。
・・・変なコトしたら殴っていいよね。
「・・・雫宮が悪いなぁ・・・」
そして次の瞬間、額に柔らかいものが触れた。
・・・これ、殴っていいやつ?
額から瞼、鼻先、頬へとキスが降りてくる。
唇を外したキスは首に向かった。                                                  
・・・これは兄妹のスキンシップに入れていいの?
明らかに駄目だよね、義姉ともこんなコトしなかったし、同性なのに。
首鈴に顔をうずめた鈴兄はそこをペロリと舐める。
「・・・っ」                                                                 
なんとか声を押さえると、舌が首を下から上へ上ってきて・・・。
顎を舐め、唇の横にキスされる。
・・・よし、蹴りの用意OK・・・。
唇に吐息が掛かる。                                                           
慣らすようなキスは終わり、私はタイミングを見計らっていた。
・・・あと1秒、あと1センチ・・・。
そしてあと少し動けば唇が当たる・・・というところで。
「・・・っ、う・・・?!」                                                                   
股間にけりを受けた鈴兄は痛みに顔をゆがめ、ベッドから落ちる。
素早くベッドから退いた私は鈴兄を横抱きにしてベッドに乗せた。
頭が枕に乗るようにして布団もかけて・・・。
「・・・丁寧だね」                                                        
その声からは反省が感じられない。
・・・スキンシップが激しい帰国子女?
なんて考えながら、私は今度こそ鈴兄に部屋を出た。
                                                                 
お風呂までの道で、私は考えていた。
なんか忘れてるような・・・?
心残りとかじゃなくて、ただただ忘れてるだけっていう感じの。
「・・・あ」                                                             
義母に挨拶するの忘れてた。
義母は朝早くから夜遅くまで働いていて、離す機会がなかったんだ。
まぁいいか。                                                             
そんなかしこまったコトするような仲じゃないし。
義母は私を愛してくれていたけど、私はそれを反射した。
・・・いや、無視してたんだけど。
私、生意気だったな。                                                      
愛されるコトができない人がいるのを知って、愛を受け止めなかった。
こわかった、んだと思う。
愛でてっぺんまで上り詰めて。
愛で終わりのない底に突き落とされたら?
・・・どちらにしろ。                                                                
感情を持つ『人間』の部類に私がが入る、もとい分類されるコトは・・・。
                                                                                                                                                                     
────許されない。