事の顛末をすべて偽りなく話すことが、唯一救われる道である。
無論、不正授受を行っていたことは罰せられるだろう。
しかし、脅威である蕭家も“黒”である以上は責めを負う。
真相が暴かれれば院長を殺す理由はなくなるため、結果的に生き永らえることができるはずだ。
「ふざけるな! わたしは被害者だろう! 何ゆえわたしが罰せられねばならぬのだ!」
「…………」
どこまでも自己中心的な院長にさらに距離を詰めた莞永は、乱れたその髪を引っ掴んで無理やり上向かせた。
「黙れ。甘えたことを言うな」
先ほどの温和な態度からは想像もつかない豹変ぶりである。
普段は優しい莞永の口調にも行動にも、強い怒りが滲んでいた。
「……っ」
「これは提案じゃない。命令だ」
凄みをきかせたその声色に、院長は喉元に刃を突きつけられているような錯覚を覚えた。
ぞっと背筋が凍りつき、肌が粟立つ。
「は、はい……。わ、わわ分かりました。話しますから、本当のこと……!」
額に汗を浮かべ、震える声で院長は頷く。
念を押すようにもう一度だけ睨みつけておき、莞永は錦衣衛の屋舎をあとにした。
春蘭たちの待つ方へ向かいかけ、一度足を止める。
近づいてくる松明の灯りに気がついた。
(あれは……)
「莞永!」
「うまくいきました?」
ふたりの声にはっとすると、駆け寄った勢いのまま春蘭の手首を掴んだ。
「えっ」
そのまま引っ張って素早く小門を抜け、牆壁の影に身を潜める。
旺靖の方は何もしなくてもついてくると踏んだが、果たして予想通りだった。
「ど、どうしたんすか? そんな急いで……」
しっ、と制した莞永は厳しい表情で松明の方を窺う。
「……蕭尚書です」
春蘭は思わず息をのみつつ、最初のように牆壁の上からひょっこり顔を覗かせた。旺靖も追随する。
松明に照らされ、鎧をまとう男と笠を被った黒ずくめの男の姿が浮かび上がっていた。
「初めてお目にかかりました……。一緒にいる男は何者なんでしょう?」
訝しげに旺靖は眉をひそめる。
春蘭には見覚えがあった。施療院で見かけたのと同一人物だろう。
「……さしずめ航季の右腕ってところね」
詳細は不明だが、紫苑の口ぶりから身体能力の高さが窺えた。武術に長けているのは間違いない。
蕭家かあるいは航季の私兵なのかもしれない。
(それを勝手に宮中に出入りさせてるなんて……)
「錦衣衛に何の用っすかね?」
「院長の買収にきたとか……あるいは口封じかもしれません」