「本当か! さすがは容燕さま……何とお心が広い」

 院長は安堵しながらも半ば当然だと言わんばかりに口角を持ち上げた。
 どうやら莞永を容燕の手の者だと思っているらしい。

「……いいえ、容燕さまの(めい)ではありません。鳳家のお嬢さまの指示で参上したのです」

 院長の表情が硬直した。あまりの驚愕で目を見張る。

「なに……!? あの生意気な小娘が?」

 礼儀を欠いた不遜(ふそん)なもの言いに、莞永は思わず眉をひそめる。
 それに気づいた院長は慌てて「あ、いや……お嬢さまが?」と言い直した。

「何ゆえだ……。わたしを助ける義理などないはず」

「蕭家はあなたを見捨てるでしょう。もとより医官に復職させるつもりなどなく、用済みになれば殺すつもりだったのです」

 莞永はさも事実のように告げた。実際、そうである可能性が高い。
 それを受けた院長はさらに目を見開き、わなわなと全身を震わせる。

「う、嘘だ! そんな、まさか……」

「嘘ではありません。あなたを捕らえ、ここに連行するよう命じたのは────ほかならぬ航季さまですよ」

「!」

 さすがにそれはでまかせだったが、航季の名が出た途端、院長の顔色がさっと変わった。
 顔面蒼白だ。全身の震えが椅子に伝わり、かたかたと音を立て騒ぐ。

「裏切られた、ということか……? わたしは……」

 衝撃が徐々に怒りへと姿を変えていく。院長は、ぐっと奥歯を噛み締めた。

「このままでは、あなたは殺される」

 歩み寄って静かに告げると、院長は勢いよく顔を上げた。
 もし拘束されていなければ、縋るように掴みかかっていただろう。

「た、助けてくれ! 頼む、どうか……っ」

 絶望からかその双眸(そうぼう)には涙が光っていた。

「わたしはただ言われたことをやっただけなんだ。渡した薬が何に使われていたかも知らない!」

「……認めるんですね? 不正授受のことは」

「……み、認める」

 それを受けた莞永は、すっと目を細めた。

「助かる方法はひとつだけあります」

 人差し指を立てて示し、にっこりと微笑んでみせる。

「尋問の場で包み隠さず真実を話すこと」