「わたしは、捕らえられたふたりを助けたいと思ってる」

 決然たる眼差しを受け、莞永は目を見張った。“ふたり”が指す人物は明白だ。

 莞永自身は助けたくとも手立てがなく、途方に暮れているところだった。

「本当に……?」

 しかし、理由が分からない。春蘭が悠景や朔弦を救う理由である。

 もとより莞永は朔弦の動向や口ぶりから、鳳家は敵だとばかり思っていた。
 だからこそ余計に戸惑ってしまう。

「とりあえず錦衣衛の兵と話したいの。行ってくるわね」

「ちょ……ちょっと待ってください。錦衣衛と何の話を?」

 春蘭は少し迷った挙句、慎重に口を開いた。

「────一連の黒幕は蕭家なの。それを証明するために、証人のひとりを捕まえに行ってもらいたくて」

 莞永や旺靖の無事を考えれば隠し通しておくのが無難だったかもしれないが、かのふたりを救いたい“同志”としてはともに背負うべき事実である。

「……蕭家、っすか? まさか」

「おかしいです。味方になったはずなのに……」

「証拠も証人も揃ってる。消されないうちに暴きたいのよ」

 ふと考え込むように眉を寄せた莞永は、錦衣衛を一瞥(いちべつ)してから視線を戻した。

「もしかして、その証人のひとりって施療院の院長じゃありませんか?」

 春蘭ははっと顔をもたげる。

「そう! どうして知ってるの?」

「お嬢さまたちがここへ来る少し前に連行されてきたんです。この目で見ました」

 なぜ、と思ったが、光祥の顔が思い浮かんで腑に落ちた。
 堂へ赴いた彼が夢幻と話し、先んじて院長の捕縛(ほばく)に動いてくれたのかもしれない。

「よかった、それなら連れてくる手間が省けたわ。尋問で本当のことを話すよう、院長に説得しなきゃ」

 施療院で相対した彼の態度を思い返す限り、その望みは低いように思える。しかし、だからといって諦めるわけにはいかなかった。

 蕭家と(じか)に接触した彼の証言が肝となるのだ。どうにかしてそのことを認めさせなければならない。

「……まさかとは思うんですが」

 莞永が不安気に、恐る恐るといった様子で春蘭を見た。

「お嬢さま自ら院長とお会いになる気で?」