聞き知った事実のうち、どれひとつとしてすんなりと腑に落ちなかった。浸透する前に弾かれてしまう。

「おかしいわ……。濡れ衣よ」

 春蘭を尋問した朔弦は薬材について追及してきた。羽林軍全体がそうなのか彼個人がそうなのかは知らないが、その原因を探っているようだった。

 少なくともその件については蕭家や太后と無関係なのではないか、という昨晩の推測は恐らく正しい。

 薬材云々(うんぬん)の動向が王室のせいだなどと帰結するわけもなく、彼らがそんな触れ文をする(いわ)れもない。

「……こうなった以上、蕭家の狙いはふたりに罪をなすりつけて陥れることだったということですか」

「ああ、きっと罠に()められたんだろうね」

 早々に裏切ったところを見ると、容燕は最初から悠景らと手を組む気などなかったのではないだろうか。

 これを機に太后の()()を折ることで勢威(せいい)()ぎ、牽制(けんせい)してみせたのかもしれない。

「……助けなきゃ」

 ぽつりと呟いた春蘭の声は凜と澄んで場に落ちた。

「何だって?」

「お嬢さま、朔弦にどんな目に遭わされたかお忘れですか?」

「そうだよ、助ける理由もないだろう?」

 光祥と紫苑は口々に苦言を(てい)し、異を唱える。

「そうだけど……。蕭家はあくどい連中なんでしょ? その身勝手の犠牲になってる人たちがいるって知ってて見殺しになんてできないわ」

 悠景や朔弦だけでなく、薬房で暴徒化していた民たちも(しか)りだ。

 蕭家の私欲による策謀(さくぼう)になす(すべ)なく飲み込まれそうになっていると分かっていながら、見て見ぬふりができるほど春蘭は冷酷ではなかった。

「でも、そのためにわざわざきみが危険を(おか)す必要はないだろう? そうしたところで利なんてない」

「利とか損とかじゃなくて、これは人としての道理の話よ」

 まっすぐな視線がふたりを射る。
 臆することなく堂々と言ってのける姿から、内側に確固たる意思が覗けた。

 不義(ふぎ)を許さない信念を頑固な性分(しょうぶん)があと押ししており、これ以上何を言ったところで、その意思を曲げることも覆すこともできないだろうことは傍目(はため)にも明白だ。