動き出した事態をうまく処理できない。
 それは悠景も同様だったが、はたと我に返るなり頭に血を上らせた。

「何だと……!? 貴様、誰の差し金だ! 俺がそんな指示をするはずねぇだろ!」

 突拍子のない、まったく身に覚えのない話だった。
 激昂(げきこう)して当然である。見ず知らずのならず者により反逆者に仕立てられたのだ。

 朔弦にとっても想定外の展開だった。
 容燕が誰かに罪を着せようとしていることは読めていたが、まさか叔父の名が出るとは。

 何の恨みがあって裏切ったのか、見当もつかない。
 ひとつ確かなのは、なすがままに流されていては悠景も朔弦もあっけなく容燕に殺されるということだ。

「陛下、これは陰謀です」

 王に向け、朔弦は至極冷静に言った。

 形式上であっても最も力があるのは王である彼だ。不利な状況を覆すには彼を味方につけるしかない。

 容燕とていち臣下に過ぎない以上、この場においては王の言葉を無視するわけにはいかないだろう。

「…………」

 煌凌は戸惑うように悠景と朔弦を見た。
 黒幕である容燕の真の狙いは、どうやら彼らを陥れることであるようだった。

「何が陰謀なものか。そうやって言い逃れするつもりか、逆賊ども」

 挑発するような容燕のもの言いに、悠景はまたも呆気(あっけ)に取られる。

「逆賊!?」

「妙な言い方はおやめください」

 混乱の中、どうにか最低限の否定をすることしかできない。
 悠景はもとより、朔弦も難渋(なんじゅう)していた。
 
 しかし、仮にこの場で真っ当な反論をしたとしても無意味だ。
 徹底的に不利な方向へ持っていかれるだけだろう。

 のちのち揚げ足を取られないよう否定はするが、それが限界である。

「主上、この者らを捕らえるようご命令を」

 容燕は淡々と王に指示する。
 困惑から抜け出せない煌凌は()とも(いな)とも答えられなかった。

 容燕が権謀術数(けんぼうじゅっすう)を巡らせていることは自明(じめい)であるのに、現状を打破する(すべ)を見出せない。

 この場に男の自白を覆す証拠や材料が揃わない以上、容燕の言うことは“正しい”。

 言う通りにするほかない。でなければ、(ほこ)の向く先は自分となる。

「陛下……!!」

 悠景の縋るような眼差しに、耐えきれなくなった煌凌は視線を逸らして俯く。

 眉頭に力が込もり、泣きそうな表情になった。
 許して欲しい、と心の内で懇願(こんがん)する。無力な王には、臣下も民も守れない。

「……ふたりを、投獄せよ」