現れた容燕と王の姿を認め、錦衣衛の武官が拷問を制止した。
「……っ」
煌凌は充満する血のにおいに思わず顔をしかめる。
松明に照らされ、惨たらしい光景がありありと目に飛び込んできた。
開け放たれた牢の前に置かれた拷問用の木椅子。
肘かけの部分にはくっきりと爪痕が残り、線状に傷が走っている。
そんな椅子に両腕を縛られた上で両足まで拘束され、がっくりと項垂れる傷だらけの男。
髪はぼさぼさで、衣は擦り切れ、元の色が分からないほどに薄汚れて血が滲んでいた。
男は意識が飛んでいるのか、ぴくりとも動かない。
圧倒された煌凌は一歩も動けなくなった。崩れ落ちないよう、その場に立っているだけで精一杯だ。
「おいでですか」
ひと足先にここへ来て拷問を監督していた悠景が、容燕と煌凌に言った。傍らに立つ朔弦も一礼する。
残酷な光景に怯んだ煌凌が縫いつけられて動けないでいる中、血溜まりの中を躊躇なく進んだ容燕は男を見下ろした。
「この者か」
込み上げる笑みを押し留めつつ、神妙な顔を作ってみせる。
「左様です。何とも我慢強い男で、なかなか口を割りませんが」
悠景は困ったように眉を寄せて言う。
錦衣衛の兵が棍棒のようなもので袋叩きにしたり、焼印を直接皮膚へ押し当てたりした痕跡がひどく痛々しい。
直視できなくなった煌凌はそっと視線を外した。
「水をかけよ」
容燕が錦衣衛の兵に命じる。
は、と頭を下げた彼は、用意してあった桶一杯の水を男の顔面にぶちまけた。
「かは……っ」
その拍子に意識を取り戻した男は吸い込んだ水にむせ、虚ろな目を弱々しく開ける。
ぽた、ぽた、と、髪や顎先から水滴がしたたった。赤く透けた雫だ。
それが衣に落ち、さらに染みを広げていく。
「さぁ、答えよ。触れ文の首謀者は誰だ」
容燕は情け容赦なく、厳しい声色で問う。
男は弱々しく首を横に振った。
激しく抗議する気力ももはやないと言った様子である。
「し、知りません……。俺は、何も……」
掠れた声で息も絶え絶えだ。
本当に何も知らないのではないかと思った煌凌は、つい憐憫の眼差しを向けた。
しかし、容燕は冷酷に目を細める。
「さっさと吐かんか! このまま黙っておればそなたの命だけでは済まぬぞ」
激しい怒号に煌凌は肩をすくめた。自分に向けられたものではないと分かっていても、十二分に恐ろしい。